シューベルト Schubert

■糸を紡ぐグレートヒェン Gretchen am Spinnrade D.118,op.2
ニ短調,6/8,速すぎずに,変化した有節形式

[作曲時期]1814年
[歌詞] ゲーテ(「ファウスト」第1部のグレートヒェンの部屋の場で口ずさまれる歌)

シューベルト17歳の時の作品で,近代ドイツ・ロマン派リートの成立を示す記念碑的作品と言われている名曲です。ゲーテの「ファウスト」第1部でグレートヒェンが糸を紡ぎながら,ファウストを慕って歌う詩に曲を付けたものです。

この糸車を模したピアノ伴奏によって,全曲が有機的に統一されています。その上に曲は展開し,次第に狂気に近づいていく様が描かれます。ドラマティックな気分の強い表出力はそれまでのリートにはみられなかったものです。特に歌詞の最後の方に出てくる「接吻Kuss」という部分でのみピアノの伴奏がピタリと止まる辺りは絶妙です。

このように,有節形式でありながら,歌詞に即した曲が付けられているのが特徴で,シューベルトの詩的なものと劇的なものに鋭敏に反応する能力の独創性が鮮明に現れている曲となっています。

その後,シューベルトは,ゲーテの詩に曲を付けた作品を次々と発表していきますが,それらは彼の作品の中でも特に傑作として知られるものが目白押しとなっています。ゲーテの詩の持つ精神性の高さのシューベルトの音楽とが互角に渡り合っていることの証明と言えます。
(2007/09/29)