シューベルト Schubert

■ピアノ・ソナタ第20番イ長調D.959(遺作)

シューベルトの死の年に書かれた「最後の3つの大ソナタ」中の1曲です。シューベルトはもう1曲イ長調のピアノ・ソナタを書いていますので,この曲は「大きなイ長調」と呼ばれることもあります。第19番のソナタもベートーヴェンのピアノ・ソナタを意識した作品ですが,第20番もベートーヴェン風のがっちりとした密度の高さを持っています。この曲の書かれた前年に亡くなったベートーヴェンに対して憧れを持っていたシューベルトの書いたピアノ・ソナタの中で1つの頂点を築いている作品といえます。

曲はシューベルトの死後に出版されており,遺作となっています。

第1楽章
曲はベートーヴェンを意識したような重厚な和音の連続の第1主題で始まります。が,全音符→2分音符→4分音符...と段々とスピードを速めていくのは,やはりどこかシューベルトらしい感じです。その後,3連符を中心に曲は進みます。しばらくするとホ長調に変わり,穏やかで優しい気分を持った第2主題になります。この主題は,シューベルトらしい歌に満ちていますが,しばらくすると力強い半音階進行の3連符が出てきて,ベートーヴェン的な気分になってきます。この後,小結尾となります。呈示部は繰り返されます。

展開部は第2主題の素材に基づいてハ長調で始まります。16分音符の細かい音符が徹底して使われながら,微妙な色彩の変化を見せて展開されていきます。第1主題は一瞬だけ姿を見せます。再現部は両主題ともイ長調で演奏されます。コーダでは,最初力強く演奏されていた第1主題の和音の連続がひっそりと美しく演奏され,名残惜しげな気分を作りながら余韻たっぷりに楽章を結びます。

第2楽章
3/8拍子による3部形式の緩除楽章です。楽章は哀愁を帯びたメロディで始まります。このメロディは変化を付けて,しかし淡々と5回繰り返し歌われます。

中間部は,経過的な部分です。3連符,32分音符,16分音符のパッセージが転調を繰り返しながら続きます。途中,トリルが出てきたり,半音階的な進行が出てきたり,華麗で力強い盛り上がりを築きます。その後,最初の部分が再現されます。ここでも主題は繰り返し演奏されますが,その都度,装飾的なメロディを伴い,変奏曲風に進みます。最後はピアニシモになり,静かに消え入るように終わります。

第3楽章
跳躍音形を多く取り入れたスケルツォ楽章です。この主題は飛び跳ねるような可愛らしさを持っています。その後に続く「タタタタタタ,タラララ」という親しみやすいリズムなどにはシューベルトらしさが感じられますが,突如,力強く暗いメロディが出てきたりしてベートーヴェン風の野性味な感じられます。

中間部のトリオはニ長調で少しテンポを落として演奏されます。右手と左手とが少し不思議な気分を感じさせながら会話をするように進んでいきます。その後,最初のスケルツォに戻り楽章は終わります。

第4楽章
ロンド形式風に始まり,曲の中間に展開部が入るロンド・ソナタ形式で書かれています。図式的に書くとA-B-A-C-A-B-Aとなります。

最初に出て来る第1主題は幸福感がじわじわと広がるような健康的な気分を持っています。学校の校歌などを思わせるようなシンプルさもあります。このメロディは,いろいろと装飾が施されながら繰り返されます。しばらくするとホ長調の第2主題が出てきます。「タンタンターン,タタタタタ」という同音反復の後上昇するメロディはシューベルト的です。この主題が高音,低音に繰り返し出てきて,ソナタ形式の呈示部に当たる部分が終わります。その後,第1主題が回帰してきます。

展開部にあたるCの部分では,ベートーヴェンのピアノ・ソナタを思わせるような迫力のある力強い展開が続きます。高音部と低音部とが掛け合いをするような部分の後,ソナタ形式の再現部に当たる部分になります。第1主題が静かに繰り返し演奏された後,第2主題も主調で出てきます。

再度,第1主題が出てきますが,ここでは全休符をはさみながらたどたどしく演奏されます。その後,スピードがアップし,コーダとなります。3連符が続いてクライマックスを築いた後,一瞬静かになりますが,最後,力強い和音の連打となって全曲が結ばれます。(2005/10/17)