シューベルト Schubert

■弦楽四重奏曲第13番イ短調,D.804「ロザムンデ」

シューベルトの晩年(といっても20代後半ですが)に作曲された,後期3大弦楽四重奏曲の中
の1曲です。第14番の「死と乙女」と並んでよく知られた作品です。この曲を作曲していた頃のシューベルトは精神的な危機から脱却しつつあったとはいえ,人生に対する悲観的な見方をいっそう強めていました。そのような心境をあらわして,暗い情感に満たされています。曲の構成としては,古典的なものなのですが,モーツァルト,ベートーヴェンの弦楽四重奏曲とは一味違って,かなりロマンティックなムードの漂う作品となっています。

この曲のニックネームの「ロザムンデ」は,同名の劇音楽に由来しています。前年に作曲されたこの劇音楽の第3幕への間奏曲の主題と同じものが,この弦楽四重奏曲の第2楽章の主題として使われています。シューベルトはこの主題が気に入っていたようで,ピアノ独奏のための即興曲作品142の3の主題としても使っています。メロディメーカーとして知られるシューベルトの作ったメロディの中でも特にシンプルな美しさに溢れたメロディです。誰もが一度聞けば覚えてしまうような名旋律です。

第1楽章(アレグロ・マ・ノン・トロッポ,イ短調,4/4,ソナタ形式)
第2ヴァイオリンの揺れ動くような伴奏の音型とヴィオラとチェロによる不安げな伴奏の上にメランコリックな美しさに満ちた第1主題が連綿と歌われます。この伴奏の音型は何度も繰り返されますので,何となくブルックナーの交響曲の開始のような雰囲気もあります。暗い表情を持った経過部に続いて,ハ長調で第2主題が出てきます。このメロディにも揺れ動くような伴奏形が付いています。

展開部は第1主題に基づいて短調で始まります。対位法的な書法で次第に盛り上がり,緊張感の溢れる雰囲気で頂点を築きます。再現部は型どおりのものです。その後のコーダは第1主題によるものです。不安な気分のまま終わります。

第2楽章(アンダンテ,ハ長調,2/2,再現部が展開部を兼ねたソナタ形式)

標題となっている「ロザムンデ」のメロディ(A)が出てくる楽章です。前楽章とは違い,平和な気分が漂います。もう一つのメロディ(B)はもっと流動的なもので,「ロザムンデ」のメロディと交互に出てきます。構成としては,これらの2つのメロディがA−B−A’−B−A''という形で交互に出てきます。Aのメロディは変奏されますので,最後のA''をコーダと考えれば,展開部のないソナタ形式とも考えることもできます。

第3楽章(メヌエット,アレグレット,イ短調,3/4)
メヌエットということですが不安な情感を漂わせており,古典派のメヌエット楽章とは全く性格が違います。この楽章の主題もシューベルトの作曲した他の作品から取られたもので,「ギリシャの神々からのストローフ」という歌曲の伴奏から取られています。チェロの低い呼びかけにヴァイオリンが答えるようにして始まります。第二部では,転調を重ね,幻想的な雰囲気を作ります。トリオでは長調になり,ほのかな光が差し込んできますが,シンコペーションのリズムが不安定な気分を作り出しています。

第4楽章(アレグロ・モデラート,イ長調,2/4,再現部が展開部を兼ねたソナタ形式)
シューベルトの曲の最終楽章にしばしば出てくる,ハンガリー風の楽章です。まず民族舞曲風のメロディがリズミカルに展開していきます。一応,長調なのですが哀愁の漂う寂しげな表情が大変魅力的です。ここでも感情の動きを表すような揺れ動くようなリズムが印象的です。

曲の構成は,A−B(短調)−C−A’−B(嬰ヘ短調)−C という構成で,第2楽章同様,展開部が再現部に含まれたソナタ形式と考えられます。Aのメロディの中に出てくる,リズムは他の主題にも出てきており,全体の統一感を作っています。A’部分の念入りな展開など,非常に充実した音楽となっています。最後は徐々に弱くなっていった後,明るい響きの和音で結ばれます。(2003/11/12)