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シューベルト Schubert
交響曲第4番ハ短調,D.417「悲劇的」

この作品は,第3番までの交響曲同様,身近な私的オーケストラのために作曲された作品と言われていますが,シューベルト自身で「悲劇的」というタイトルを付けているなど,より公的なアピールを考慮している可能性もあります。彼にとって初めての短調の交響曲で,第3番までと比べて格段に個性的な作品となっています。

シューベルト19歳の時の作品で,「悲劇的」というタイトルほどには悲壮感はありませんが,シューベルトならではの美しいメロディに加え,全曲を通して素材的な関連があるなど,聴きごたえのある作品と成っています。

  • 作曲年:1816年4月27日
  • 公開初演:1849年11月19日ライプツィヒ
  • 編成:フルート2,オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット4,ティンパニ,弦五部

第1楽章 
序奏:アダージョ・モルト ハ短調 3/4
交響曲第3番まで同様,オーケストラの全奏による主音がバンと出た後,リズム要素,旋律要素で和音分散を対比させるというスタイルの序奏で始まります。特徴なのは,じっくりと動く,半音階的進行が含まれていることで,ミステリアスなムードをしっかりと漂わせています。

主部:アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ短調 4/4 ソナタ形式
ソナタ形式の主部は序奏部の不穏な空気をそのまま引き継いでいます。第1主題は,上行する音型が特徴的で,焦燥感に包まれています。第2主題は,変イ長調で呈示され,柔らかな歌に溢れています。その後,第2主題の後半には新しい素材が付け加わり,ホ長調に転調されるなど展開され,力強い小結尾になります。この辺の充実した展開や主題の対比については,ベートーヴェンの交響曲を思わせるところがあります。

展開部はそれほど長くなく,再現部に繋がります。再現部では第1主題がト短調で再現した後は,型どおり進行します。最後はハ長調に転調して締められます。

第2楽章 アンダンテ 変イ長調 ヘ短調の中間部を持つ変則的な三部形式
この楽章では,トランペットとティンパニは使われず,平和で穏やかな気分に包まれます。構成は,ABABA+コーダというスタイルです。

Aの部分の第1主題は,即興曲op.142-2と似た,柔らかで穏やかな表情を持っています。Bの部分は,第1楽章の素材を引き継いだ対照的な性格を持つもので,へ短調で演奏されます。

第3楽章 メヌエット(アレグロ・ヴィヴァーチェ)−トリオ 変ホ長調 4/4
メヌエットと書かれていますが,スケルツォ風の性格が強く,主部の音の動きにも半音階進行が大々的に含まれています。微妙な色合いの変化を付ける転調の妙もシューベルトならではのものです。トリオも同じ調性で第1楽章と素材的な関連があります。ただし気分としては,木管楽器が飛び跳ねる民謡的なもので,親しみやすいものです。

第4楽章 アレグロ ハ短調 2/2 ソナタ形式
第1主題が呈示される前に,4小節の導入部があります。この導入部が再現部冒頭にも出てくるところに独自性があります。

第1主題は,第2,第3楽章同様,第1楽章の第1主題と関連のあるもので,暗い気分が漂う転調的,変奏的な性格を持ったものです。第2主題は弦と管の掛け合いによる跳ねるようなもので,短いものです。第1主題による充実した小結尾の後,展開部になりますが,ここでも第1主題中心の動きとなります。ただしく大きく盛り上がるのではなく,接続的な性格のみです。

再現部はハ長調で始まり,そのまま全曲た閉じられます。ハ短調からハ長調ということで,ベートーヴェンを意識したような構成となっています。ベートーヴェンほどドラマティックな展開にはなっていませんが,シューベルトの初期の交響曲の中では群を抜く情念のほとばしりが感じられる楽章です。

(2021/07/23)