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シューベルト Schubert
交響曲第5番変ロ長調D.485

シューベルトの交響曲といえば,「未完成」「ザ・グレイト」が有名ですが,それに次いで人気が高いのがこの第5番です。まだ10代だったシューベルトが,その締めくくりの時期に書いた作品です。暗い情念を感じさせる第4番と同じ時期に書かれていますが,それとは対照的に非常にシンプルに小粋にまとまっており,ハイドン,モーツァルトの交響曲を思わせる,洗練された完成度の高い作品となっています。その一方,古典的な端正さの中に,ほのかに甘くせつない雰囲気が漂うのはシューベルトの交響曲ならではの魅力です。

楽器編成は,フルート1,オーボエ,ファゴット,ホルン各2,弦五部で,シューベルトの交響曲の中でも最も小さいものです。この編成は,モーツァルトの交響曲第40番(第1稿)と同じ編成ですが,調性の点でも共通する部分があります。シューベルト自身,そのことを意識して作曲した可能性もあるようです。

第1楽章 アレグロ 変ロ長調,2/2,ソナタ形式
シューベルトの交響曲としてははじめて序奏部がない曲です。その代わりに4小節の導入部がついています。この部分で,まず木管楽器による可愛らしい感じの和音が2つ演奏された後,それに重なるようにヴァイオリンが爽やかに下降するフレーズを演奏し,第1主題へと移っていきます。

第1主題は,ヴァイオリンが演奏する,上向しながら軽く弾むようなフレーズで始まります。すぐに,低弦にも同様に弾むようなフレーズが出てきて,対話をするように進んでいきます。このメロディには,ところどころ翳りがあり,明るさと切なさが同居しているような魅力を持っています。その後,元気よく盛り上がった後,第2主題が出てきます。こちらも第1主題同様軽快なものですが,対称的に下向するもので,より落ち着いた気分があります。

展開部は,曲の序奏部のような音形をもとに変ニ長調を中心に色合いを変えて進みます。呈示部の最後に出てきた動機によるクライマックスを築いた後,落ち着いた気分となり,第1主題が再現されます。再現部は,型どおりで,ハイドンの交響曲のスタイルを思わせる形になっています。

第2楽章 アンダンテ・コン・モート 変ホ長調,6/8,コーダの付いた2部形式
シューベルトのメロディメーカーとしての才能が溢れた魅力的な緩徐楽章です。基本的にAとBの2つの主題が交互に出てくる形になっています。

最初に出てくるAの部分では,ゆったりと歌うような主題が出てきますす。シンプルな中に,なつかしい気持ちを想起させてくれるような魅力を持っています。Bの部分では,32分音符の細かい動きの上に息の長い少し哀愁を帯びた主題がしっとりと歌われます。ヴァイオリン,オーボエなど色々な楽器によってメロディが歌い継がれていきますが,途中,短調に転調されたり,シリアスな表情を見せます。

この2つの部分が繰り返された後,Aによるコーダで楽章を閉じます。

第3楽章 メヌエット(アレグロ・モルト),ト短調,3/4
同じト短調で書かれていることもあり,モーツァルトの交響曲第40番と重なる暗い情熱を秘めたメヌエット楽章です。違うのは,こちらの方がテンポが速く,スケルツォ風の躍動感がある点です。

中間部のトリオでは,ト長調になり,ほっと一息つくことができます。メロディラインとしては,共通する部分もあるのですが,ゆったりとしたレガートで演奏され,鮮やかな対比を感じさせてくれます。その後,最初のト短調が戻って,楽章を閉じます。

第4楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ,変ロ長調,ソナタ形式,2/4
もの暗さのあった第3楽章と対照的に,軽快な第1主題で楽章始まります。この主題が自然に盛り上がり,シリアスな表情に変った後,フェルマータで中断し,第2主題になります。第2主題はヘ長調で演奏され,より柔らかな雰囲気があります。

展開部は第1主題の最初の部分の動機が中心に扱われます。展開が静かに中断された後は,型通りの再現部になります。全曲の最後は,シンプルにすっきりと締められます。
(2009/07/25)