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シューベルト Schubert
交響曲第6番ハ長調D.589

この交響曲は,1817年当時ウィーンで巻き起こっていたロッシーニ旋風をシューベルトなりに消化して作曲した交響曲です。同時期に作曲された2曲のイタリア風序曲と似た気分を持っています。基本的にはハイドンの交響曲風なのですが,それにイタリア風の雰囲気とベートーヴェン風のスケルツォを加えたような独特の爽やかさを漂わせた作品となっています。

この曲の初演ですが,作曲されてから10年ほど後の1828年,すなわちシューベルトの死の年に行われています。シューベルトは,この時,現在「ザ・グレイト」と呼ばれている大交響曲を演奏してもらいたかったのですが,演奏が難しすぎるということで拒否され,この第6番ハ長調を演奏することになりました。10年ほど前の作品だったとはいえ,それでも最新の交響曲だったというのがその理由です。ただし,その初演を待たずにシューベルトは亡くなってしまいました。

というわけで,この曲はザ・グレイトと因縁のある作品です。同じ調性で書かれているので,「ザ・グレイト」の「大ハ長調」に対して,「小ハ長調」と呼ばれることのある作品です。ただし,少々ややこしいのですが,自筆総譜には,「大交響曲ハ長調」と書かれています。この「ザ・グレイト」の影で,少々損をしている面もありますが,もっと聞かれても良い,魅力的な交響曲です。

第1楽章 アダージョ ハ長調3/4−アレグロ ハ長調2/4
交響曲第5番で外された序奏部がこの曲では復活しています。序奏は,ベートーヴェンの序曲を思わせるような,少し翳りのある堂々とした和音で始まります。続いて木管楽器が中心にモチーフを出していく部分になります。この序奏部が静かに終わった後,ソナタ形式で書かれた主部になります。ここでは,1つの主題がその次の主題を生んでいくような連続構成が中心です。

第1主題は,木管楽器だけで演奏される軽やかに弾むようなもので,どこかハイドンの「軍隊」交響曲の雰囲気に似ています。いくつかのモチーフを含み,それぞれが重要な役割を果たします。これに弦楽器が加わると,「ロザムンデ」の序曲のような雰囲気になり,華やかに盛り上がっていきます。ざわざわとした弦楽器の上にフルートによってト長調で演奏される第2主題も軽快なものです。木管楽器を中心に演奏された後,弦楽器が加わっていきます。小結尾は第1主題中の下降する動機に基づくものです。

展開部は,この下降動機に,第1,2主題の中の一部の動機が合わさって進んで行きます。ただし,それほど長くはなく,ブリッジ的な性格です。型どおり再現部となった後,一気にスピードアップし,第1主題を変奏したようなピウ・モルトのコーダとなります。一旦,その勢いが止まった後,最後は力強く締めくくられます。

第2楽章 アンダンテ,2/4,2部形式
シューベルトらしい流麗かつ繊細な第1主題で始まります。その後,この主題は装飾されるように変奏されながら進んでいきます。第2主題は力強い和音で始まります。3連符の歯切れの良い動きが特徴的です。

後半部は,これらの主題がさらに装飾されて進みます。シューベルトはこれまで交響曲の緩徐楽章では,トランペットやティンパニを使って来なかったのですが,この楽章では後半部を中心にこれらの楽器を使っています。そのこともあり,「ザ・グレイト」にも通じるようなスケール感を作り出しています。

第3楽章 スケルツォ,プレスト ハ長調,3/4
シューベルトが第3楽章にメヌエットではなく,スケルツォと明記したのはこの曲が初めてです。そのこともあり,スケルツォを好んだベートーヴェンの影響も感じられる楽章となっています。ハ長調ながらホ短調も含んでおり,シューベルト的な新鮮な和声感覚も感じることができます。

スケルツォ主題は大変歯切れの良く,軽快に進みます。よく聞くと「タタタ,タン」という「運命の主題」も含んでいます。弱音の後,爆発的に盛り上がる辺りもベートーヴェン的です。

トリオでは,テンポがぐっと落とされますが,主題的には主部との連続性があります。ここでもトランペットやティンパニを使用しているのが特徴的です。ホルンによるドローン風の持続音によってレントラー舞曲的な性格も際出たせています。再度,プレストの主部に戻り,楽章を閉じます。

第4楽章 アレグロ・モデラート,ハ長調,2/4 展開部のないソナタ形式
ディヴェルティメント的な軽妙さが目立つと同時に「やっぱりシューベルトだなぁ」と思わせる,魅力的な楽章です。

冒頭,第1主題は,弦楽器によってひっそりと出てきます。この「タン,タン,タラララ」というシューベルトの好んだリズムの繰り返しががとても心地よく響きます。この音型を中心に,各楽器による対話のように曲が進んだ後,突然下降するようなファンファーレのような第2主題がフォルテシモで出て来ます。音楽に勢いが付いた後,今度はフルートとオーボエによって柔らかくハモリながら進む第3主題が出て来ます。まさに音楽が湧き出るように主題が出て来ます。「タンタタン」という付点リズムによるのんびりとした動機に勇壮な響きが加わり,独特の強弱の変化をもった小結尾となります。

ホルンの持続音によるブリッジの後,展開部なしで,呈示部に戻ります。再現部は,楽器の使用法や和声的には少し変化が付けられていますが,基本的には呈示部の基本的に再現となっています。コーダは,付点リズム動機を中心とした勇壮なものです。「ザ・グレイト」を予告するような,同じリズムの繰り返しによる堂々とした盛り上がりを作り,全曲を締めくくります。(2006/09/24)