シューベルト Schubert

■交響曲第8(9)番ハ長調,D.944「ザ・グレート」

この曲よりも長い交響曲はいくらでもあるのですが,この曲にだけ特別に「ザ・グレート」というニックネームがついています。シューマンが,この曲のことを「天国的な長さ」と評したことも有名ですが,いずれにしてもシューベルトの作った最大の交響曲です(「未完成」が完成していたら,どうなっていたかわかりませんが)。シューベルトは古典派とロマン派の境目あたりに立つ作曲家ですが,その両方の魅力を併せ持つ名曲です。

この曲は,シューベルトが尊敬するベートーヴェンの交響曲に負けないものを作ろうと思い立って作られたもののようです。その狙いどおり,メロディメーカーとしてのシューベルトの魅力を持ちながらも,線の太い逞しさも感じさせる立派な曲になっています。ただし,演奏する方からすると,結構冗長な部分も多いらしく,それが「ながーい」と言う印象に繋がっているようです。

この交響曲は,19世紀には第7番と呼ばれていましたが,その後,「未完成」交響曲が発見されたため,かなり最近までは第9番と呼ばれていました。しかし,さらに最近研究の結果,第8番という番号が付けられることになりました。「何番かはっきりせい」という感じですが,今後は徐々に第8番で定着していくと思われます。ただし,「第9番「ザ・グレート」」という印象がまだまだ強いので,最近では,第8(9)番という表記が一般的なようです。

第1楽章
アンダンテの序奏とアレグロの主部からなっています。曲の冒頭,いきなり2本のホルンが単独で「ドーレーミ,ラーシドー」とシンプルなメロディを悠々と演奏します。この部分は大変印象的でこの交響曲のトレードマークのようになっています。このシンプルなメロディは演奏するのはそれほど難しくないようですが,ホルン奏者にとってはとてもプレッシャーのかかる部分です。この主題がいろいろな楽器で扱われていくうちに徐々にスケールアップしていきます(ちなみにこの主題は早稲田大学の応援歌「紺碧の空」と結構似ています)。序奏の終わりで次第にクレッシェンドして,主部になだれ込みます。この辺の迫力も聞きものです(この部分ではフルトヴェングラーのものをはじめとして徐々にスピードアップしている演奏もたくさんありますが,これは効果的ですが楽譜にはないものです。)。

主部では気分が変わり軽快なテンポになります。第1主題は付点リズムが特徴的な弾むようなものです。木管楽器の3連符を伴いながら発展していきます。第2主題は木管楽器によるちょっと物悲しい主題です。いかにもシューベルト的な魅力的な部分ですが,クロアチア民謡から取られたものと言われています。さらに転調し,上向するような第3主題がトロンボーンで出てきます。

展開部は,第1主題と第2主題が重なり合って出てきます。特に第2主題のリズムがかなり執拗に繰り返されます。3連符の持続の後,再現部となります。型どおり進行しますが,第2主題はハ長調ではなくハ短調になります。コーダでは,テンポを上げながら,序奏のメロディを再現して壮大に結ばれます。

第2楽章
2つの主要なメロディがABABAという順に出てくるアンダンテの楽章です。全体にロマンティックな気分に溢れています。最初のAの主題は,低弦の雰囲気たっぷりの音の動きの上に,オーボエで演奏されます。大変魅力的なメロディです。短調で始まるのですが,途中長調になる辺りの微妙な色合いの変化もシューベルトならではです。その後,弦楽器などによる毅然とした雰囲気の部分が続きます。Bの主題は,低音楽器の導入に続いて,第2ヴァイオリンによって歌われます。下降するような豊かなメロディもAに劣らず大変魅力的です。

ホルンによるつなぎの音型の後,後半に入っていきます(この部分は,シューマンが「天の使いが潜んでいるようだ」と絶賛した部分です)。後半もA,Bが微妙に味付けを変えながら交互に出てきます。最後にAによるコーダとなり,静かに結ばれます。

第3楽章
スケルツォ楽章です。冒頭の主題は,歯切れよく,エネルギッシュでいて,ユーモアもある印象的なものです。最初弦楽器の低い音で出てきて,木管楽器が軽やかに受ける形で進んでいきます。続いて,滑らかな音の動きの対照的なメロディが続きます。中間部は,シューベルトらしい流麗なメロディを持つ大変美しいレントラー舞曲風です。この部分でも木管楽器の活躍が印象的です。その後,最初の部分が戻ってきます。

第4楽章
大変快活な楽章です。まず,オーケストラの全奏で「タッタター」とファンファーレ風に第1主題が始まります。この音型を弦楽器が弱音で受けます。この2つの音型が繰り返されて展開していきます。第2主題は「ドードードードー」という音型で始まるシンプルなものですが,ここでも微妙な調性の変化が付けられており,魅力的に展開していきます。

この後に続く展開部は,第2主題から関連したメロディが出てきますが,ちょっと第9の「歓喜の歌」に似た雰囲気もあります。これらのメロディが交錯しながら展開した後,冒頭の主題が出てきて,再現部になります。最後は,これまで出てきた主題を盛り込んだ単純ながら堂々としたコーダとなり,元気良く全曲が結ばれます。(2003/04/07)