シューマン Schumann

■チェロ協奏曲イ短調,op.129

シューマンがデュッセルドルフ市の音楽監督に就任した直後の精神的に安定した時期に作曲された曲です。シューマン自身,チェロの音に強く魅力を感じていたことを反映してか,全曲に渡りロマン的な憂愁をたたえています。当時,チェロ協奏曲という分野は一般的ではなく,この曲も,シューマンの生前に演奏された記録は残っていないようです。ドヴォルザーク,ハイドンのチェロ協奏曲と並んで「3大チェロ協奏曲」と呼ばれることのある割には,現在でもそれほど生で演奏される機会は多くない曲です。が,チェロの重要なレパートリーであることは間違いありません。

曲の形式は,メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲などと同様,3楽章続けて演奏されるようになっています。時間的にはそれほど長くない曲ですが,独奏チェロは相当高度な技巧を要求されます。

第1楽章
最初にオーケストラが密やかに3つの和音を演奏して曲は始まります。この音型は全曲全体の核となるモチーフです。独奏チェロが同じモチーフによる豊かな情感をたたえた第1主題を演奏します。その後,オーケストラの方もオクターブの音の跳躍を含む音型で高揚します。次に独奏チェロが低音域から駆けあがるように第2主題を提示します。軽さと大胆さが交じり合ったものです。このように,この楽章は,チェロが高音域と低音域をアルペジオを利用して自由に行き来するのが特徴です。また,オーケストラの響きの方は,チェロを生かすために薄く作られています。この後,チェロによるカデンツァ風のフレーズで呈示部が終わります。

展開部は,第1主題が中心に展開されます。ここでは独奏チェロが常に前面に出ています。再現部は,少し省略されていますが,呈示部にそっています。その後,カデンツァ風のコーダになります。オーケストラは,情熱的に盛り上がりますが,少しずつ抑制されて,第2楽章に移ります。

第2楽章
間奏曲的な楽章です。前楽章からは,管楽器の3つの和音によります。チェロは,一度下がった後,憧れに満ちて上行するメロディを歌います。静かだけれども熱のこもった音楽です。中間部では,重音奏法(ダブルストップ)によるロマン的な響きを堪能できます。オーケストラのチェロ・パートとの二重奏が続いた後,フルートで第1楽章の第1主題が出てきます。チェロがそちらに傾きかけますが,再度,2楽章の瞑想的な世界に戻ります。チェロが2つの世界の間で葛藤するかのようにレチタティーヴォ風に進み,テンポを速めて第3楽章に入ります。

第3楽章
第1楽章の主題と関連のあるリズミカルな主題がきっぱりと出てきます。オーケストラとチェロのやりとりが続いた後,チェロが華やかに見せ場を作って,音階を上がって熱くなっていきます。展開部では,独奏とオーケストラが緊密に対話を繰り返します。再現部では,チェロがいっそう激しく燃え上がります。オーケストラの伴奏付きのカデンツァでは,チェロの難技巧が駆使され高音域で活躍します。コーダでテンポを速め,快活に全曲を閉じます。(2002/11/13)