シューマン Schumann

■流浪の民,op.29-3
シューマンは,時代によってかなり偏った作曲の仕方をしているのですが,この曲は文字通り「歌の年」に作曲されています。シューマンの合唱曲のみならず全ての合唱曲の中でもっとも親しまれている曲の一つです。日本でも明治時代から親しまれており,石倉小三郎の訳による「ぶなの森の葉がくれに,宴ほがい賑わしや...」という文語調の歌詞も有名です(ちなみにこの歌詞の途中に出てくる「なれし故郷を放たれて」の部分は,「ハナタレテ」の部分ばかりがよく聞こえるので,子供の頃は,別の意味に解釈して喜んでいる同級生がいましたね)。

この曲は,シューマンと同時代に活躍したガイベルという人の3つの詩につけた合唱曲集の中の1曲です。原題は「ジプシーの生活(Zigeunerleben)」で,ジプシーの一夜の宿泊を描いています。もとは混声4部合唱ですが,現在では女声合唱でもよく歌われます。

曲は「タターン,タターン」という暗く情熱的なリズムを持つピアノの前奏で始まります。このリズムが曲全体の基調を作っています。歌の方は,弱音で始まって次第に感情を高めるように盛り上がってきます。途中,讃美歌か何かのように晴れやかなメロディが出てきた後,ソロでいろいろなメロディが出てくる部分になります。いろいろな調性でやり取りされながら進んでいきます。最後に重唱になった後,最初の短調の合唱の部分に戻ります。最後は,「ルローノタミー」と嘆くような感じで終わります。(2003/04/27)