ショスタコーヴィチ Shostakovich

■ピアノ五重奏曲ト短調op.57

ショスタコーヴィチの室内楽曲を代表する作品です。全体は5楽章から成り,組曲的な構成となっています。第1,2楽章と第4,5楽章が続けて演奏されるので,全体的には第3楽章を中心としたシンメトリカルな構成となっています。

1940年にモスクワで初演された作品で,外見的には社会主義リアリズム路線を踏まえた分かりやすい作品となっています。重厚さと軽やかさと叙情性が絶妙のバランスで組み合わせられた見事な作品です。ショスタコーヴィチの作品のみならず,20世紀の室内楽を代表する名曲の一つです。

第1楽章 前奏曲 
レント−ポーコ・ピウ・モッソ−レント,ト短調,4/4,三部形式に近い自由な形式

前奏曲と名付けられた第1楽章は比較的簡潔な三部分構成から成っています。厳粛な感じのする力強いピアノの和音で曲は始まります。その後,少しバロック音楽を思わせるような音が続き,弦楽四重奏がその主題を受けます。フェルマータで音が伸ばされた後,第2部に入り,テンポが速くなります。こちらはメヌエット風の軽やかさを持っています。最初はピアノとヴァイオリンが繊細に絡み合いますが,次第にポリフォニックな展開を見せます。第三部は第1部の再現ですが,より複雑になっており,全合奏によってさらに力強く演奏されます。

第2楽章 フーガ アダージョ,ト短調,4/4
第1楽章から続けて演奏されるフーガの楽章です。非常に厳粛な雰囲気のある楽章です。フーガ主題はまず,弱音器付きの第1ヴァイオリンで呈示されます。この主題は少し寂しげで単純なものです。最初はボソボソと演奏されますが,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,ピアノの順に登場し静謐さの中にも,次第に雄大な気分を作っていきます。

ピアノのソロになった後,再度各楽器にフーガ主題が出てきますが,今度はより緊張感が強くなりドラマティックに盛り上がります。その頂点で,ピアノが突如,第1楽章の最初の音型を力強く演奏します。その後,チェロが引き継ぎ,フーガ主題が弦楽器静かに再現されます。ピアノが出てきた後は終結部となり,チェロとピアノの低音が主題を繰り返す中,静かに結ばれます。

第3楽章 スケルツォ アレグレット,ロ長調,3/4
5楽章中の真ん中の楽章ということで,全曲の頂点となる楽章です。ショスタコーヴィチが最も得意とする,ちょっとシニカルな動きを持ったスケルツォです。主題は弦楽器の刻む力強い4分音符のリズムの上にピアノが精力的に動き回るような印象的なものです。

第2主題は第1ヴァイオリンに出てきます。こちらはもっと気まぐれな感じで,装飾的な音符を伴っています。続いてピアノが高音域で鐘を連打するような印象的なメロディを演奏します。その後,第1部が再現されます。ここでは楽器が変えられています。終結部では変拍子を交えて,より熱狂的になり,力強く終わります。

第4楽章 間奏曲 レント,ニ短調,4/4,三部形式
チェロのピツィカートの上に第1ヴァイオリンが憂いに満ちた歌を歌って楽章は始まります。このメロディは第1ヴァイオリンとヴィオラの二重奏に受け継がれます。その後,ピアノがキラキラとした高音で加わってきます。その後も各楽器が,出たり入ったりしながら,緻密な色合いの変化や陰影を作っていきます。

途中からはピアノが一定のリズムを刻み,その上で大きく盛り上がっていきます。最後は徐々に静謐な気分に戻り,そのまま最終楽章に入っていきます。

第5楽章 終曲 アレグレット,ト長調,2/2,自由なロンド形式
ピアノが,穏やかだけれども指がもつれそうになるような不思議な気分のある第1主題を演奏します。それを弦楽器が引き継ぎます。その後,第1楽章第1主題や第2楽章フーガ主題などが回想されますが,ここではもう少し明るい雰囲気になっています。

その後,リズミカルな新しい音型が弦楽器に出てきます。続いてピアノに出てくるメロディは非常に跳躍の大きなものです。同じリズムのまま曲は大きく高揚していきます。途中,コルレーニョ奏法も出てきます。

再現部ではより古典的な気分になり,自由で明るい気分になります。終結部は,微笑むようなユーモアをたたえながら,ディミヌエンドし,弦のピツィカートとピアノの最弱音で終わります。(2005/06/18)