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ショスタコーヴィチ Shostakovichr
弦楽四重奏曲第15番変ホ短調op.44
ショスタコーヴィチは,ベートーヴェンとほぼ同数の弦楽四重奏曲を作曲しています。生涯に渡って作曲を続け,その創作過程における変化と発展を表現している点も共通しています。死の前年に書かれたこの第15番は,「死の予感」と「人々との別れ」の気分のある作品で,演奏時間の点でも40分近くかかる大作となっています。

ただし,この作品は弦楽四重奏史上でも特に異様な作品となっています。6楽章全部がアダージョ,4つの楽器が絡み合うというよりはモノローグの積み重ね,すべてが剥ぎ取られたような孤独感...作曲者自身が親切に何かを伝えようという意図は少なく,ひたすら自身の内面に沈潜していくような重苦しさに支配されています。

作曲者,最晩年の境地を伝える「謎の問題作」と言えそうです。なお,各楽章には,それぞれ標題が付けられており,切れ目なく演奏され,最終楽章で全楽章を回顧するような形になっています。

第1楽章 「エレジー」アダージョ 4/4
第2ヴァイオリンが演奏する,主音(変ホ音)で始るエレジー風の主題で曲は始ります。この主題は,ショスタコーヴィチが好んだドリア旋法で書かれています。これがフーガとして発展して行きます。全体的にロシア民謡風の素朴さもあります。その後,第1ヴァイオリンが美しい第2主題を演奏します。その後,中間部を挟んで,前半部が再現されます。この楽章は,4分音符と2分音符の均等なリズムを中心に書かれており,独特のミステリアスな気分が漂っているのが特徴です。

第2楽章 「セレナード」アダージョ 4/4
この楽章の出だしの部分は独特です。まず,第1ヴァイオリンが,最弱音から最強音に向かって爆発するようなフレーズを演奏しますが,これが各楽器により12回繰り返されます。つまり,1オクターブ中の全音が使われます。こういう書法は他に例がないのではないかと思います。

ピツィカートでギターのような和音が演奏された後,標題にもなっている「セレナード」風のメロディが出てきますが,それほどロマンティックな感じはありません。最後に冒頭部が繰り返されます。

第3楽章 「間奏曲」アダージョ 4/4
第4楽章への導入的な部分で,全楽章中,いちばん短い楽章です。第1ヴァイオリンによる激しい動きで始った後,後半は嘆きに似たメロディが中心となります。途中,バッハの有名な無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータの中のシャコンヌに似た音型も出てきます。

第4楽章 「ノクターン」アダージョ 4/4
第2ヴァイオリンとチェロが演奏する分散和音の上に,ヴィオラが情熱的なメロディを演奏します。これをチェロが受け継ぎ,感動的な部分になりますが,最後はモノローグのように静かに終わります。

第5楽章 「葬送行進曲」アダージョ 4/4
最初の方で,ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」の第1楽章に出て来る「ターンタ・ターン」という音型が全楽器によって重々しく演奏されます(このような引用は,弦楽四重奏曲第11番でも行われています。)。その後,ヴィオラによって告別の歌と言っても良いようなメロディを演奏します。これが各楽器に移り,最後はチェロの印象的な弱奏で閉じられます。

第6楽章 「エピローグ」アダージョ 4/4
全楽器による主音の強奏に続いて,第3楽章を回想するような細かい動きを持った主題が第1ヴァイオリンによって演奏されます。その後も,各楽章の主要主題の断片が現れます。静かなメロディに沿って,細かいフレーズやトリルが演奏されるのが特徴的です。すべての回想が終わった後,遠方に去るように音が静かに消えて,全曲が終わります。
(2010/03/27)