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ショスタコーヴィチ Shostakovichr
弦楽四重奏曲第8番ハ短調op.110
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のみならず,20世紀の弦楽四重奏曲の中でももっともよく知られている作品です。曲は「ファシズムと戦争の犠牲者の思い出に」捧げられています。過去の作品のモチーフを散りばめている点,作曲者自身を意味するD-S-C-Hの主題を使っている点など,いかにもショスタコーヴィチらしい作品となっています。演奏時間も20分余りとコンパクトですので,「ショスタコーヴィチ入門」として相応しい曲です。

曲は1960年に作曲され,同年,ベートーヴェン弦楽四重奏団によってレニングラードで初演されています。この曲の意図については,謎な点が多いのですが,自殺を覚悟したショスタコーヴィチの辞世の曲という説も出されています。楽章は5つに分かれていますが,一続きに演奏されます。

この曲は,後にモスクワ室内管弦楽団の指揮者のルドルフ・バルシャイが弦楽合奏用に編曲しています。この編曲に際しては,ショスタコーヴィチの意見が相当取り入れられているとのことです。この弦楽合奏版の方は,室内交響曲という名前で知られています。

第1楽章 ラルゴ,ハ短調,4/4,フーガ
冒頭チェロによってD-S-C-H(レ−ミ♭−ド−ソ)の悲痛なモチーフが演奏されます。このモチーフは全曲の中心主題となっています。その後,3つの抒情的な対旋律を組み合わせ,ロンドのような形でフーガが展開されます。なお,このD-S-C-Hの主題は交響曲第1番の第1楽章でも使われています。

第2楽章 アレグロ・モルト,嬰ト短調,2/2,トッカータ
第1楽章の静かな気分から一転して,激しい主題が唐突に現れます。これがカノン発展し,さらに大きく盛り上がります。そのクライマックスの部分でユダヤ民族を象徴するような主題が熱を帯びて朗々と出てきます(この主題は,アウシュビッツでユダヤ人が自分の墓を掘りながら歌った歌と言われています。ピアノ3重奏曲の終楽章でも使われています。)。その後,前半部分が再現されて,突然休止します。

第3楽章 アレグレット,ト短調,2/2−3/4,ロンド形式のワルツ
激動の第2楽章の後に続いて間奏曲風の楽章となります。D-S-C-Hの中心主題に続いて,第1ヴァイオリンがワルツ主題を演奏します。突然,チェロ協奏曲第1番の第1主題が力強く現れ,情熱的なチェロ独奏を経た後,各主題が再現されます。

第4楽章 ラルゴ,嬰ハ短調,3/4,自由なロンド形式
激しい砲火を思わせる強烈な和音とチェロ協奏曲第1番の主題とが組み合わされて曲は進みます。「怒りの日」,ロシア革命歌,交響曲第10番などいろいろな曲の断片が和音の強奏にそのつど打ち消され,最後にD-S-C-Hの中心主題が残ります。

第5楽章 ラルゴ,ハ短調,4/4,フーガ
第1楽章後半の再現となります。凝縮されたフーガが続いた後,最後に中心主題をはかなく悲しげに演奏して,全曲が閉じられます。(2007/08/20)