ショスタコーヴィチ Shostakovich

■交響曲第9番変ホ長調,op.70
ベートーヴェンの第9交響曲以来「第9番が最後の交響曲になる」という,「第9のジンクス」ともいうべき言葉がありました。ブルックナー,シューベルト,ドヴォルザークなど(数え方によって微妙に数は変わるのですが),いずれも番号としては9番を越えていません。マーラーなどは,第9交響曲を作曲すると死んでしまう,と真剣に思っていたようで,第8交響曲の後に番号なしの「大地の歌」という交響曲を作ったりしているくらいです。結局,マーラー自身,10番を完成させずに亡くなったので9番のジンクスを破れなかったことになります(「大地の歌」を9番としておけば良かったものを)。

その宿命の第9ですが,ショスタコーヴィチは,周囲の期待をすっぽかすかのように,ディヴェルティメントのような「軽い第9」を作曲しました。ソヴィエト当局も,「もっとまじめに作曲せよ」と怒り,その後,「反省」したショスタコーヴィチは,オラトリオ「森の歌」を作曲して名誉を回復することになります。うまく「9番」を切り抜けたせいか,ショスタコーヴィチは,その後15番まで交響曲を作曲することになります。この辺は,ソヴィエト時代を生き抜いたショスタコーヴィチらしい「知恵」という気がします。

曲の長さは,約25分で,ショスタコーヴィチの交響曲の中では,いちばん短いグループに属しますが,編成的には,それほど軽いものではありません。トロンボーン3本に加え,チューバも入っています。小規模な作品といっても,あくまでもショスタコーヴィチの他の交響曲に比べての話ということになります。

第1楽章 ディヴェルティメント風の軽くはずむような明快なメロディが弦楽器の弱音で演奏されて曲は始まります。この楽章はこのメロディに代表されるように古典派の交響曲とほとんど同じ形式で書かれています。ショスタコーヴィチ版古典交響曲ともいえそうです。その後,トロンボーンが「タ・ターン」と跳ね上がるような音型を一吹きします。その後,行進曲風になり,ピッコロが可愛らしい感じの第2主題を演奏します。この主題提示部は,古典派の曲のように繰り返されます。展開部は,最初は弦楽器が主体ですが,次第に金管楽器や打楽器が加わって大きな盛り上がりを作ります。この辺は,いかにもショスタコーヴィチ的です。再現部では,フォルテで第1主題が再現した後,「タ・ターン」という音型がしつこく出てくるうちに,第2主題が,今度はピッコロではなく独奏ヴァイオリンで演奏されます。最後,チャン・チャンという感じで終わるのも,楽しいのですが,どこか人を食ったような風刺の雰囲気も漂っています。

第2楽章 ショスタコーヴィチといえば「暗い」と言われることが多いですが,その片鱗が表れている楽章です。後期の曲ほど暗くはないですが,やはり,かなりのものです。楽章全体は,とても抒情的で繊細です。クラリネット2本によるメランコリックな雰囲気に続いて,木管楽器を中心としてシンプルだけれども非常に美しい部分が続きます。中間部は,弱音器をつけた弦楽器が半音ずつ揺れ動きます。そこに木管楽器が重なってきます。楽章の最後は,この2つの部分が順に再現して,消えるように終わります。

第3楽章 この交響曲は全体の長さが短いにも関わらず,5つの楽章に分かれています。そのうち,3〜5楽章は続けて演奏されます。第3楽章は,スケルツォにあたります。クラリネットの躍動的な主題で始まります。中間部は金管が大活躍します。特にトランペットが派手に半音階を上がったり下がったりするのが目立ちます。最後の方は次第に力を落としていき,次の楽章につながっていきます。

第4楽章 トロンボーンとチューバの重々しい響きで始まります。非常に短い楽章で,第5楽章の序奏のような位置付けです。ファゴットが高音域でレチタティーヴォのような感じで歌います。これが繰り返された後,次の楽章に移ります。

第5楽章 ファゴットがとぼけた感じの主題を演奏し始めます。このメロディが弦楽器で繰り返された後,オーボエによる第2主題が出てきます。中間部では,付点音符を持ったメロディがヴァイオリンによって流麗に演奏されます。これに木管楽器などが絡みながら,しばらく展開が続きます。次第に盛り上がってきて,第1主題がトロンボーン,チューバなどを加えて,トゥッティで復帰してきます。トランペットが楽しげに登場し,凱旋行進のような雰囲気になった後,テンポが速まり,終結部に入ります。弦と木管が掛け合いをするような感じでスピード感たっぷりに進み,最後は一気にチャチャ・チャンと終わります。(2002/02/20)