ショスタコーヴィチ Shostakovich

■チェロ・ソナタニ短調op.40

ショスタコーヴィチの作曲した唯一のチェロ・ソナタであると同時に,20世紀以降のチェロ曲の代表曲の一つです。曲は,ショスタコーヴィチが歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」でプラウダ紙で批判を受ける直前の1934年に作曲されています。この時期,ショスタコーヴィチはモダンな音楽を志向していたはずなのですが,この曲はどちらかというと,洒脱で明るい雰囲気も持った,平明で聞きやすい作品となっています。とはいうものの,そこはショスタコーヴィチの作品,ちょっと怖さを感じさせるようなひんやりとした空気も存分に漂っています。

第1楽章
モデラート−ラルゴ,ニ短調.4/4
ソナタ形式の後に,葬送行進曲が続く独特の形式です。冒頭から,フォーレを思い出させるような哀愁をおびた第1主題がピアノのアルペジオの上に出てきます。第2主題は非常にロマンティックなもので,ピアノに出た後,チェロに引き継がれます。展開する気配を見せながらもこのメロディはすぐに終わり,続いてピアノにショスタコーヴィチらしい,展開部を暗示させる「タタタッタタ」というリズムが出てきます。その後,呈示部が繰り返されます。

展開部では,この「タタタッタタ」というリズムが中心に展開され,次第に高潮していきます。このリズムが止まったところで,再現部に入ります。ここでは第1主題が省略され,第2主題が再現されます。チェロがフェルマータで音を伸ばした後,ピアノの暗い響きが出てきて,葬送行進曲風の部分になります。この部分は第5交響曲の第1楽章の終結部を思わせるところがあります。

第2楽章
3部からなる才気を感じさせるワルツ風の楽章です。ワルツといってもかなり急速で演奏されるのでスケルツォ的な性格もあります。まず,チェロが単純に上下を繰り返すような機械的な音型を強く演奏します。それに乗って歯切れの良いワルツ主題が出てきます。その後はチェロがピアノの伴奏の上にワルツ主題を演奏します。

中間部では,D線上のフラジオレットとグリッサンドを急速に同時に行うという特異なアルペジオがチェロに出てきます。視覚的に見ても効果の上がる部分です。その後は,チェロとピアノが競いあうように単純なワルツ主題を演奏します。第1部が再現された後,力強く楽章は結ばれます。

第3楽章
深い抒情性のあるラルゴの楽章です。弱音器つきのチェロが低音域から徐々に上がってくるような瞑想的なメロディを演奏します。ピアノの方も静かに伴奏します。続いて,チェロに美しい主題が出てきて,朗々と歌います。静かな中に情熱を秘めているような雰囲気で曲は進んで行きます。楽章の最後の方では,ロシア音楽によく出てくるような鐘の音を模倣した音型が出てきて,余韻を感じさせながら終わります。

第4楽章
ユーモラスなロンド楽章ですが,どこか屈折したようなところがあります。この人をくったようないかにもショスタコーヴィチ的なロンド主題の後に,ロシアの民族舞曲を思わせるようなメロディが続きます。その後,ピアノが突然爆発的に強奏します。それに続いて,急速なタランテラのような部分になります。ロンド主題の再現の後,ピウモッソの部分になり,滑らかな新しい主題が出てきて,ピアノ,チェロの順に演奏します。

しばらくすると,急速な音型がピアノに出てきて,トッカータ風の動きを見せます。その上にチェロが大きく跳躍するようなメロディを演奏します。その後,ロンド主題が戻ってきます。チェロのピツィカートを伴ったひっそりとした部分が続いた後,ピアノの強奏とチェロの飛躍するような音型があって全曲が鮮やかに結ばれます。(2005/01/26)