OEKfan TOP > 曲目解説集  Program Notes
シベリウス Sibelius
ヴァイオリン協奏曲ニ短調op.47

ヴァイオリン協奏曲の代表作と言えば,「4大ヴァイオリン協奏曲」と言われるベートーヴェン,メンデルスゾーン,チャイコフスキー,ブラームスの作品が何と言っても有名ですが,それに勝るとも劣らない傑作がシベリウスのヴァイオリン協奏曲です。20世紀に作られた協奏曲としては最も演奏頻度の高い作品でしょう。

この作品ですが,4大ヴァイオリン協奏曲が伝統的なスタイルによって書かれているのに対して,北欧的な(シベリウス的といって良いかもしれません)ひんやりとしたほの暗い空気が流れているのが特徴です。シベリウス自身,ヴァイオリニストを目指していたこともあり,難技巧も盛り込まれていますが,それよりも交響曲的な響きを重視し,民族音楽的要素を取り入れている点が聞き所となっています。

初期の代表作である第2交響曲の1年後に書かれた曲ということで,ロマン派的なスケールの大きさと現代性とがしっかりと組み合わさっているのも魅力で,実演でもレコードでもしっかりとヴァイオリンの重要なレパートリーとして定着しています,

なお,この曲については,1903年に初稿が書かれた後,1905年に大きな改訂がされています(ブラームスのヴァイオリン協奏曲を聞いて改訂を考えたと言われています)。シベリウス自身,初稿を演奏することを禁じたと言われていますが,1990年代になって,シベリウスの遺族の許諾を得て,初稿で演奏したCDが発売され話題になったことがあります。

楽器編成:フルート2,オーボエ2,クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット2,トロンボーン3,ティンパニ,弦5部

第1楽章 アレグロ・モデラート,ニ短調,2/2,かなり変形されたソナタ形式
第1楽章は,全曲の半分ほどの長さがあり,内容的な比重も高くなっています。ソナタ形式で書かれていますが,楽章の真ん中にカデンツァを置くなど通常のソナタ形式として整理し切れない楽章です。

冒頭,ザワザワとさざめくようなヴァイオリンの合奏の上に独奏ヴァイオリンが弱音で哀愁に満ちた第1主題を表情豊かに演奏します。これはかなり息の長いメロディで,この部分を聞くだけで北欧の気分に浸ることができます。この主題が熱く盛り上がり,さらにカデンツァ風の部分が続いた後,静かに落ち着いた感じの第2主題部になります。

最初は,木管楽器を中心にもごもごと言っている感じなのですが,突然,独奏ヴァイオリンが情熱的な重音奏法で格好良く入ってきます。これが静かに落ち着いた後,今度は管弦楽のみで演奏される第3主題部になります。ここでくっきりと出てくる少し土俗的な感じのするメロディも大変印象的です。この主題が,フルート,クラリネットと受け継がれ,トロンボーンを加え力強く盛り上がった後,すーっと静まり返ります。

ここでまた,独奏ヴァイオリンが3オクターブを一気に跳躍するモチーフを演奏し,カデンツァ風の部分に入っていきます。このように,「いきなり曲想が変わる」のがこの曲の大きな特徴です。それでいて,前の主題が次の主題の素材になっているところがあり,関連性も持っています。このカデンツァはかなり長いもので,さまざまな,技巧を駆使して,これまでに出てきた主題を扱っていますので,展開部を兼ねたような性格を持っています。通常のカデンツァとは違い,楽章の真ん中に置かれていますので,文字通り楽章の核となる部分を形成します。

その後,再現部的な部分となりますが,3つの主題はそれぞれに改変されており,激しい盛り上がりを見せますので,展開部と再現部を兼ねた性格を持っていると言えます。最後の部分では,独奏ヴァイオリンがジプシー・ヴァイオリンを思わせる華麗なパッセージで第3主題を飾り,第1主題を扱ったコーダとなります。最後は力強い和音で締められます。

第2楽章 アダージョ・ディ・モルト,変ロ長調,4/4,自由な3部形式
クラリネットからオーボエに受け継がれる弱音によるミステリアスな序奏の後,独奏ヴァイオリンが主要主題を朗々と演奏します。弦のピツィカートによる装飾の後,背後には,弦楽器による特徴的なリズムが静かに出てきます。

序奏部の動機が弦楽器で強く出された後,暗い雰囲気を持った中間部になります。ここでも独奏ヴァイオリンが演奏している間,特徴的なリズムが一貫して続いています。管弦楽と一体となって激しく盛り上がった後,主要主題がヴィオラ,オーボエ,クラリネットに出てきて,第3部に入ります。この主題を管弦楽が引き継ぎ,独奏ヴァイオリンはこれを装飾します。最後は,楽章全体を回想するかのように静かに終わります。

第3楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ,ニ長調,3/4
「ドンドコ,ドンドコ,ドンドコ....」と,北国の火祭りの太鼓のような不思議なリズムに続いて,独奏ヴァイオリンがG線のたっぷりとした音でノリの良い雰囲気をもった第1主題を演奏し始めます。この独特のリズムですが,ティンパニと他の楽器のリズムをわざとずらしてあるのが面白いところです。このリズムが一貫して続く中,独奏ヴァイオリンは,技巧的なパッセージを次から次へと繰り広げます。

第2主題の方も,軽快なリズムに乗って始まりますが,こちらの方は短調で演奏され,民族舞曲のような味わいを持っています。独奏ヴァイオリンが重音奏法を交えて華麗なパッセージを繰り広げた後,3連音符が続く部分となります。その後,管弦楽と一体となって,大きく高潮し,最初の部分が力強く再現されます。

ここでは第2主題の方は,クラリネットで出され,独奏ヴァイオリンのフラジオレットがそれを飾ります。その後,独奏ヴァイオリンが重音奏法を交えて華々しく展開した後,スケール感たっぷりのクライマックスとなります。独奏ヴァイオリンは,重音奏法による起伏の大きなメロディをうねうねと演奏し,背後ではホルンと低弦が不気味なうなりを上げます。最後は,独奏ヴァイオリンが音階を駆け上がり,管弦楽との掛け合いを見せながら,力強く結ばれます。
(2008/09/18)