シュトラウス,J.II  Strauss,J.II

■ワルツ
シュトラウス・ファミリーのワルツは,基本的に「序奏+いろいろなワルツの接続曲+終結部」という形を取っています。この枠組みを基本として,いろいろな工夫がされています。序奏の部分は,3拍子でないこともありますが,主部のワルツはもちろん3拍子です。いわゆるウィンナー・ワルツと呼ばれています。大体がとても速いテンポなので,三角形を書いて指揮をする人はあまり見かけません。ウィンナー・ワルツの特徴は,「1・2・3」と機械的にリズムを刻むのではなく,2拍目あたりが微妙に長くなっています。この辺の間は「本場でないと...」とよく言われるところですが,このことにこだわり過ぎることもないと思います。なお,上の図式の中の「いろいろなワルツ」の部分は繰り返しをしたりしなかったりがあるので,テンポの遅い速いとは別に演奏時間が意外に違ってくることがあります。

「ウィーン気質」op.354
ウィーンの人々の優雅な雰囲気を表したワルツです。最初の方にヴァイオリン独奏が出てきますが,この部分はシュトラウス自身がヴァイオリンを弾きながら演奏していたのではないかと思います(OEKではマイケル・ダウスさんがその役割を担います)。この辺のセンチメンタルで懐かしい雰囲気が特徴です。主部に入ると軽やかなワルツが続きます。

「ウィーンの森の物語」op.325
「美しく青きドナウ」と並んでシュトラウスの曲の中でも特に親しまれている曲です。演奏時間は10分以上かかりますので,シュトラウスのワルツの中でもいちばん規模の大きい曲の一つといえます。ウィーンは,緑に囲まれた都市ですが,その市民の憩の場となっているウィーンの森を愛でた曲です。

序奏部はとても長く,ロマンティックな雰囲気と楽しい森の雰囲気が溢れています。この曲のいちばんの特徴は,この部分で独奏楽器としてツィターが使われていることです。ツィターはオーストリアの民族楽器で,映画「第三の男」でアントン・カラスがこの楽器を使ってテーマ音楽を演奏したことで世界的に有名になりました。そのせいか,このツィターによって演奏される旋律は,レントラー舞曲のような味わいがあります。最後の方で,この旋律が回想風に出てくるあたりも見事な構成です。

「美しく青きドナウ」op.314
ウィンナー・ワルツの代名詞ともいえる名曲です。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでは,正式なプログラムとして載ることはありませんが,アンコールとして「必ず」演奏される曲です。敗戦で沈んでいたオーストリアの人々を励ますために作られたこの曲はオーストリアの「第二の国家」とも呼ばれています。オリジナルは,男声合唱付きだったようですが,現在はオーケストラだけで演奏されることがほとんどです。

曲は,スメタナの交響詩「モルダウ」などと同様,川の流れを上流から下流へと辿るような雰囲気があります。冒頭の弦楽器だけのトレモロの序奏からして,雰囲気があります。ちなみにウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでは,この部分を演奏すると拍手が沸き起こり,曲が中断され,指揮者が新年の挨拶をする,という段取りになっています。続いて出てくるホルンの独奏も聴き所です。主部に入って次々出てくるワルツも変化に富んでいます。後半に行くほどスケールが大きくなるのは,川の流れが下流に来てゆったりと流れているのを描写しているのかもしれません。

ちなみに,この曲はスタンリー・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」で,宇宙船が宇宙空間を漂っているシーンのBGMとしても使われました。そのイメージが離れなくて困る人も多いようですが,それだけピタリとはまっていました。

加速度円舞曲,op.234
タイトル通り,ゆっくり始まって徐々に速くなっていくようなメロディを持つワルツです。弦楽器の「タラララララ」という音の動きがユーモラスです。こういうのもアッチェレランドと言いますが曲の原題も"Accelerationen"といいます。ただし,この部分の後は,いろいろなタイプのワルツの連続という「いつものパターン」なのですが,時々この「加速度のあるワルツ」が戻って来ます。

ちなみにこの曲ですが,カルロス・クライバーが初めてウィーン・フィルのニュー・イヤーコンサートに登場した1989年の演奏会の冒頭で演奏されています。クライバーのぐるぐる回す指揮ぶりは加速度のイメージにはよく合いそうです。

芸術家の生涯op.316
シュトラウスは,コンサート向けのワルツと舞踏会向けの実用的なワルツを書き分けていたと言われています。この曲は,後者の実用的なワルツに当たります。「美しく青きドナウ」とほぼ同時期に書かれた曲ですが,華やかで流麗な「ドナウ」と比べると対照的につつましやかな雰囲気のある曲となっています。

曲は静かなホルンの信号をオーボエやクラリネットが受けて始まります。タイトルの由来ははっきりしませんが,シュトラウス自身が理想とする芸術家の生活を音楽で描いているといわれています。シンプルでしっかりとした構成感のある,大変まとまりの良い作品となっています。

皇帝円舞曲op.437
「美しく青きドナウ」「ウィーンの森の物語」に次いで有名な曲です。この3つでシュトラウスの3大ワルツと言えそうです。曲はフランツ・ヨーゼフI世のオーストリア帝国即位40周年の舞踏会のために作られたと言われていましたが,最近では別の説が有力になっています。いずれにしても序奏部分からして堂々としています(ワルツといいつつ,この部分は行進曲のような感じですが)。続くワルツにも気品とゴージャスな雰囲気が漂っています。ちなみに,この曲は,ベルナルド・ベルトルッチ監督の「ラスト・エンペラー」でも効果的に使われています。

「南国のバラ],op.388
ヨハン・シュトラウスのワルツの中でも特によくまとまった名曲です。ひっそりとしたムードのあるゆるやかな序奏の後,4つのワルツが続くといった構成は,他のワルツと共通していますが,どのワルツも親しみやすく,流れるような幸福感に包まれています。この曲は,イタリア国王フンベルト1世のためにスペインを舞台とした「女王のレースのハンカチーフ」という自作のオペレッタの中のメロディを集めて1曲にしたものです。「スペイン=南国」ということになるようです。オリジナルのタイトルは”Rosen aus demSuden"といいますが,"Rosen"と"Suden"とが心地良い韻を踏んでいます。(2002/11/30)