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シュトラウス,R.. Strauss, R.
ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調op.18

リヒャルト・シュトラウスといえば,一般的には,編成の大きなオーケストラ作品や歌劇の作曲家という印象が強いのですが,このヴァイオリン・ソナタは,彼の室内楽曲を代表する作品です。シュトラウス24歳(1887年)というかなり初期に書かれたこともあり,シューマンやブラームスといったドイツのロマン派作曲家の室内楽の伝統上にある作品と見なすこともできますが(事実,ブラームズのヴァイオリン・ソナタなどと大して作曲時期は変わりません),その和音や転調のセンスには後のシュトラウスの作品を思わせる華やかさがあり,近年評価が上がっている作品です。

シュトラウス自身,ヴァイオリン奏者だったこともあり,技巧的な難易度が高いのですが,それがそのまま演奏効果となって現れている作品で,以前は往年の名ヴァイオリニストのハイフェッツが好んで演奏していましたが,近年は若手のヴァイオリニストも取り上げるようになり,後期ロマン派を代表するヴァイオリン・ソナタとして演奏会やCDのレパートリーとして定着しています。

第1楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ,変ホ長調,4/4,ソナタ形式
堂々とした雰囲気のあるスケールの大きな楽章です。冒頭すぐにピアノの力強い和音で始まる第1主題が出てきます。その後,ヴァイオリンが柔らかくメロディを続け,ピアノと絡みながら,ロマンティックな気分をゆったりと醸し出します。この第1主題には副主題がいくつか続きます。最初の副主題はピアノ独奏で表情豊かに始まり,ヴァイオリンが引継ぎます。続いてもう暗く情熱的な副主題がヴァイオリンの高音に出てきます。これをピアノがキラキラと光るような華麗なアルペジオで受けます。

この部分が静まった後,変ロ長調になり,やはり情熱的気分を持った第2主題がヴァイオリンが高音域で演奏されます。3連符だったピアノ伴奏は,途中から第1主題に基づく付点リズムに変わり,力強さを加えます。

曲が静かになり,展開部になります。ここでは第1主題とその2つの副主題が中心に扱われます。情熱を暗く秘めたようなムードと表情的な歌が交錯し,聞き応えのあるヴァイオリンとピアノの応酬が続きます。その後,第1主題が弱音で出てきて,再現部になります。ここでは,すぐに暗い情熱を持った2番目の副主題となります。第2主題がイ長調で出てきた後,再度第1主題が力を増し,冒頭部が戻ってくるコーダになり,力強く締めくくられます。

第2楽章 アンダンテ・カンタービレ,変イ長調,2/4,3部形式
「即興」と題された楽章で,シューベルトの即興曲に通じるような,自由な歌に満ちた無言歌風の曲となっています。シュトラウス自身,この曲を気に入っており,後に独立させて出版しています。

楽章は,ピアノのシンプルな分散和音の伴奏の上にヴァイオリンがやはりシンプルなメロディを歌う主題で始まります。時折翳りのある部分も出てきますが,全般に穏やかな気分が続きます。

中間部では,ピアノの3連音の上に情熱をこめたメロディが歌われます。その後,可愛らしく繊細な気分となり,ヴァイオリンが弱音器を付けてデリケートで夢幻的な歌を歌う部分が続きます。そのうちに第1部がやや変化した形で戻ってきます。ヴァイオリンは弱音器をはずしメロディを歌います。最後は静かに消え入るように終わります。

第3楽章 終曲,アンダンテ−アレグロ,変ホ長調,6/8→3/4,ロンド形式
緩やかなアンダンテのテンポで演奏されるピアノによる前奏の後,テンポがアレグロに変わり,若々しい情熱の盛り上がりを感じさせるような主要主題部になります。ピアノによる力強い音型の後にヴァイオリンに出てくる上向するメロディなどを聞いていると,交響詩「ドン・ファン」などを連想してしまいます。その後,ヴァイオリンに大きく歌うような副主題が出てきます。これにピアノによる主要主題の音型が加わり,力強さを増します。その後,もう一つ,歌うような副主題がヴァイオリンに出てきます。ピアノの伴奏がスケルツォ風の軽快な動きに変わり,ヴァイオリンも下降するような動機を演奏します。

その後,ハ長調に変わり,堂々とした第2主題をヴァイオリンが大きく歌います。このメロディをピアノが引き継ぐと,ヴァイオリンがアルペジオで上下します。その後は,ここまで出てきた主題が展開風に扱われていきます。スケルツォ風の動機の後,主要主題が力強く再現します。表情的な副主題も再現された後,拍子が6/8に変わり,コーダとなります。スケルツォ風の動機がせわしなく続いた後,主要主題が力強く華やかに盛り上がり,全曲が締めくくられます。(2007/06/17)