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武満徹 Takemitsu
地平線のドーリア The Dorian Horizon

1966年に作曲された,17人編成の弦楽オーケストラのための作品。この17人は,舞台前方に位置する8人(ハーモニック・ピッチ)と舞台後方に位置する9人(エコー)に分けられ,室内楽的で緻密な音の世界を作り上げていきます。

各奏者は,メロディらしきものはほとんど演奏せず,非常に短い断片的なモチーフが途切れ途切れに出てくるだけです。ノンヴィブラートで演奏される音色には,笙を思わせるものがあり,時々打ち込まれるピツィカートの音も雅楽を思わせるところがあります。

タイトルの「ドーリア」というのは,中世の教会で使われていたドーリア旋法によります。正直なところどこがドーリアなのか分からないのですが,前方のオーケストラと後方のオーケストラの間での音の飛び交い,ヴィブラートとノンヴィブラートの響きの微妙な交錯など,独特の幻想味を帯びた音楽となっています。

武満さん自身のプログラムノートではこの曲について,「あじさいの滲み」「かすんだ山々の稜線の重なり」といった言葉が使われています。特定のものを強調するのではなく,いろいろな要素が相互に織り成された「新しいポリフォニー」を目指した作品ということで,景色をボーっと遠目で眺めるように鑑賞すべき作品のようです。

曲は,3つの部分からになっており,途中,不安定に音が曲がりくねるように動くような音が続いた後,最初の擦れるような音が戻ってきて,静かに終わります。

この作品は,非常に前衛的で,とっつきにくいのですが,上述のとおり,日本的な美学を兼ね備えているようなところもあります。聞き慣れてくると不思議な魅力が感じられるようになってくる(もちろん人によると思いますが)。そういう作品と言えそうです。

初演:クーセヴィツキ財団の委嘱で作曲。1967年アーロン・コープランド指揮により初演

(2010/09/18)