武満徹 Takemitsu
■夢の時
もとは,ネーデルランド・ダンス・シアターの振付師・イリ・キリアンの委嘱を受けて書かれた作品です。初演は1982年6月に岩城宏之指揮札幌交響楽団によって行われています。

武満はオーストラリアのアボリジニに伝わる神話「夢の時」から強い影響を受けてこの曲を作ったと書いていますが,音楽の方にはダイレクトにそのことが反映しているわけではありません。

「夢」が,その細部において鮮明でありながら,思いがけない非現実的な全体を示すように,この作品では短いエピソードが一見とりとめなく浮遊するように連なる。リズムの微妙な増減,テンポの変化が曲の浮遊感をいっそう強調する。
と作曲者は書いています。

曲はよどみながらもキラキラ光るような感じで始まります。木管に印象的な音型が出てきたり,美しいヴァイオリンの高音が出てきたり,つかみ所のない雰囲気で曲は進んで行きます。途中,後期の武満の作品に見られるようなとても美しくせつないメロディがヴァイオリンにすっと浮き上がって来ます。このメロディもはかなく消えてしまい,また混沌とした感じになります。ちょっと音量的に盛り上がり,安定した低音が響き渡るような部分になります。その後も何回かこういう盛り上がりと美しく静かな雰囲気とが交錯します。最後の方はドビュッシーの曲を思わすようにハープの響きが出てきた後,フルートがちょっと出てきて,ふっと消えます。

(参考)武満徹:管弦楽曲集/岩城宏之指揮メルボルン交響楽団(BVCC 634)の解説(バリー・コニンハム著)
(2003/09/13)