武満徹 Takemitsu
■系図:若い人たちのための音楽詩
武満徹が,ニューヨーク・フィル創立150周年を記念して作曲を委嘱された作品です。若い人のための音楽詩というサブタイトルが付いているとおり,谷川俊太郎の「はだか」という詩集の中から武満徹が選んだ次の6篇の詩に曲が付けられています。

1.むかしむかし
2.おじいちゃん
3.おばあちゃん
4.おとうさん
5.おかあさん
6.とおく

これらの詩は歌われるのではなく,朗読されるのが特徴です。武満さんの指定では,「12歳から15歳の少女による朗読」となっていますが,実際の演奏会では,もっと年輩の女性によって朗読されることもあります。小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラによる日本初演では,当時15歳の遠野凪子さんがナレーションを担当し,強い印象を残しました。その他,NHK制作の映像付きの版もあります。こちらは,岩城宏之指揮NHK交響楽団による演奏でした。

この作品は,「系図(Family Tree)」というタイトルが示すとおり家族をモチーフにしています。いずれも少女の1人称で書かれた詩が選ばれているのも特徴です。「むかしむかし,わたしがいた」という朗読で始まり,おじいちゃん,おばあちゃん,おとうさん,おかあさんの順にゆっくりとしたペースで語られていきます。最後の「とおく」では「でもわたしはきっとうみよりももっととおくへいける」と,まるで武満さんの音楽の世界のような詩で結ばれます。大オーケストラの中で時々聞こえるアコーディオンの哀愁のある響きも印象的です。

この曲は武満さんの作曲した曲の中でももっとも調性感のある曲の一つです。親しみやすい雰囲気と哀しくなるくらいの美しさを兼ね備えている,晩年の武満ならではの作品となっています。(2003/08/17)