武満徹 Takemitsu
■ハウ・スロー・ザ・ウィンド

1991年スコットランド室内管弦楽団の委嘱で作曲されたオーケストラ曲です。初演は1991年11月にユッカ・ペッカ・サラステ指揮の同楽団によって行われています。このタイトルは,エミリー・ディッキンソンの書いた詩の1行から引用されています。

武満自身は,プログラム・ノートの中で「抑制された色彩のなかで,微妙なニュアンスの変化による音の遠近法が試みられている」と語っています。主要動機が,波や風のように繰り返され循環し,その度に微妙に表情が変っていく曲です。自然の動きを描いているという点では,フランスのドビュッシーの交響詩「海」などの現代版といっても良い作品かもしれません。

曲は超低音と超高音とが弱音で繊細に同時に演奏されて始まります。その後も晩年の武満独特の「美し過ぎる」トーンが続きます。特に時折出てくる,弦楽器の甘さをもった超高音は,「系図」などにも共通するような,とても親しみやすいメロディを持っています。
曲は,大音量で盛り上がる部分は少ない句,「海」「風」「波」を想起させるようなざわざわとした空気でおおわれています。途中,カウベルやピアノの音も時折聞えてきます。最後はキラキラと光がきらめくようにして静かに終わります。

(参考)21世紀へのメッセージ第4巻(武満徹:管弦楽曲集)/岩城宏之指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(POCG-10053)の解説)
(2004/06/06)