チャイコフスキー Tchaikovsky

■ピアノ協奏曲第1番変ロ短調,op.23

楽器を問わず,すべての協奏曲の中でも,もっとも人気の高い曲の一つです。豪華絢爛たる雰囲気は,コンサートでは特に映え,ソリストが(普通に演奏すれば)拍手喝さいを浴びることは間違いのない名曲です。この作品は,チャイコフスキーの出世作ともいえる作品で,その後,チャイコフスキーはどんどん傑作を発表していくことになります。

「チャイコフスキーのピアノ協奏曲」といえば,普通,この第1番を指すます。番号付けがあるとおり,第2番以降もあるにはあるのですが,この曲があまりにも有名になったので,少々影の薄い存在になっています。演奏会で取り上げられる回数,レコードの録音数なども桁違いに少なくなっています。

第1楽章
第1楽章は,時間的には全曲の半分以上を占める長大なものになっています。まず,ホルンによる力強く下降してくるモチーフで全曲が始まります。この印象的な出だしは非常に有名です。合いの手でオーケストラが「ジャン」と入ってくるのもとても格好の良いものです。続いて,弦楽器によるスケールの大きなメロディが登場します。このメロディは,最初のホルンのモチーフに基づいています。その間,独奏ピアノが三拍子のリズムに乗せて「バン,バン,バン」と和音を弾くあたりも非常に華麗です。この導入部分は,この曲の中でも特に有名です...が,何とこのメロディは,この曲の中で二度と再現しません。序奏にしてはかなり長く,派手なものなので,この部分だけ「取ってつけた」たような感じになっている気がしないでもありません。

この序奏が,一区切りつくと主部になります。第1主題は,序奏部が終わり,静かになったところで登場します。ピアノのソロによるせわしなく動き回るようなメロディです。これはウクライナ民謡に基づくものです。色々な楽器でこのメロディが繰り返されたあと,第2主題Aが登場します。こちらは,まずクラリネットでしっとりと出てきます。そのあと,弦楽器で静かに第2主題Bが出てきます。これらの第2主題が華麗なピアノと一緒に盛り上がった後,展開部に入っていきます。

展開部はまず,オーケストラ演奏による第2主題Aのメロディで盛り上がっていきます。続いて,ピアノに新しいメロディが登場し,オーケストラとスケール感たっぷりにクライマックスを作っていきます。第1主題を暗示させつつ,次第に再現部に移っていきます。

再現部では,第1主題は,少し変奏されたような感じでピアノに出てきます。第2主題Aが再現した後,ピアノによるカデンツァになります。このカデンツァは非常に長大なものです。可愛らしい雰囲気になったり,ミステリアスになったり,華やかになったりと多彩に展開されていきます。カデンツァが終わると,フルート独奏に導かれて第2主題Bが再現します。その後,雄大なコーダに入っていきます。まるで全曲が終わったかのような華やかな気分に溢れています(実際,演奏会ではここで拍手が入ることもよくありますが,仕方がないところかもしれません)。

第2楽章
弦楽器のピツィカートの上にフルートによって叙情的なメロディが出てきます。続いて,ピアノがこのメロディを引き継ぎます(このメロディですが,最初フルートで演奏される時と,その後,チェロなど他の楽器で演奏される時とで音が違っているため,「記譜ミスではないか?」と言われています)。前の楽章が重量級だったためにほっと一息つけます。

中間部はおどけるような感じのスケルツォになります。急速なワルツ風のメロディはフランスのシャンソン「さあ,楽しく踊って笑わなくては」という曲の引用です。このメロディは次々と転調していきます。

再度,最初の部分が戻ってきて,静かな雰囲気で楽章を閉じます。

第3楽章
第3楽章は,前の楽章からあまり間を空けずに演奏されることがよくあります。気分は一転して,ピアノの華麗な技巧を見せつけるような楽章になります。第1主題は,ウクライナの民謡に基づいています。2拍目に強いアクセントのある,ノリの良い主題です。続いて出てくる,オーケストラによる迫力のある副主題もノリの良いものです。第2主題は弦楽器で出てきます。第1楽章の最初の部分と似た雰囲気のある美しいメロディです。

これらの主題が再現した後,さらに展開されていきます。ピアノによる細やかな音の動きのある部分が続いた後,嵐の前の静けさのような雰囲気になります。オーケストラが徐々にクレッシェンドして行った頂点で,ピアノが猛烈な勢いで入ってきてコーダになります。第2主題が雄大に演奏され,ピアノとオーケストラが掛け合いをするように,華やかに曲を閉じます。(2002/10/14)