ヴォーン=ウィリアムズ Vaughan Williams

■トーマス・タリスの主題による幻想曲

ヴォーン=ウィリアムズの作った作品では,「グリーンスリーブスによる幻想曲」が大変有名ですが,この曲と並んで知られているのが,この「トーマス・タリスの主題による幻想曲」です。ヴォーン=ウィリアムズの出世作となった名作です。こちらの曲の方がかなり長い(16分ほどです)のですが,編成の方は弦楽合奏のみという編成になっています。

この曲のタイトルに入っているトーマス・タリスは,ヴォーン=ウィリアムズの大先輩となるチューダー王朝のイギリスの作曲家です。16世紀に活躍した「英国音楽の父」と呼ばれる人です。この曲に使われた主題は,カンタベリー大僧正のために作曲した8つの旋律の中の3番目の主題です。

曲は弦楽四重奏と2重弦楽オーケストラのために書かれています。オーケストラを分割することによって,初期の教会音楽によくある交唱的(アンティフォーナル;交替する2つの合唱の掛け合いで進んでいく曲)な性格を出しています。

とても微妙な色合いと印象的な低音の動きを持つ導入部に続いて,深々とした息遣いでタリスの主題が出てきます。この主題は「グリーンスリーブス...」とちょっと似たところもあります。第1ヴァイオリン群のトレモロの上に弦楽オーケストラによってたっぷりと演奏されます。第1ヴァイオリン群がこのメロディを繰り返します。2つの弦楽オーケストラ(片方は弱音器をつけています)がこの楽想を発展させていき,弦楽四重奏に渡します。

シンプルな楽想が強弱を付け立体的に展開していく様子は,教会的な雰囲気とイギリス的な雰囲気とを併せ持って,独特の味を醸し出して行きます。メロディはさらに展開し,変形され,荘重なクライマックスを築きます。その後,落ち着いた雰囲気に戻り,独奏ヴィオラの対位法的な旋律の上で独奏ヴァイオリンが主題を演奏します。曲は最後の盛り上がりを見せた後,徐々に静かになって結ばれます。(2003/10/26)