ヴェルディ Verdi
■歌劇「椿姫」 La Traviata

ヴェルディは名作オペラを沢山書きましたが,その中でも特に有名な作品です。オペラ十八番というものがあるとすれば,そのベスト3には必ず入って来るでしょう。それくらい人気の高いオペラです。

有名なオペラの多くがそうであるように,この作品もヒロインが亡くなって終わる悲劇です。デュマ・フィスの書いた戯曲「椿姫」をパリで観て感激したヴェルディがオペラ化することを思い立って,熱狂的な情熱を傾けて一気呵成に仕上げただけあって「オペラ中のオペラ」と言って良いほど良くできた作品となっています。ちなみにこの作曲に当たっては,ヴェルディの妻のジュゼッピーナの力が大きく働いたと言われています。ジュゼッピーナにとってヴィオレッタの悲劇は他人事ではなかったのです。

しかし,意外なことに初演は失敗に終わっています。いかにも健康的な歌手がヴィオレッタが歌い,肺病で亡くなる設定の感じが出なかったからだと言われています。また,当時オペラの題材として同時代の話を扱うことは非常に珍しく(しかも高級娼婦が主人公),観客が馴染めなかったせいもあるようです。その後,ヴィオレッタにもう少し痩せ型の女性を起用し,少し前の時代設定に変更して上演したこともあり,人気が次第に出てきて,ヴェルディの代表作となりました。

この曲のタイトルですが,実は「椿姫」ではありません。「椿姫」というのはデュマ・フィスの原作のタイトルで,オペラ版の方は「ラ・トラヴィアータ(La Traviata;道を踏み外した女)」となっています。ちなみにヒロインの名前もマルグリートからヴィオレッタに変えられています(ヴィオレッタといのは「すみれ」という意味なので,本来は「すみれ姫」の方が相応しいのですが)。わざわざこのように変えた辺りにヴェルディの思い入れがあります。正義感に溢れた作曲家であるヴェルディは「リゴレット」「オテロ」などをはじめとして,社会から疎外されてきた人物を主役として扱ってきました。この「椿姫」の主役ヴィオレッタも,「道を踏み外した高級娼婦」ということで,これらのオペラの同列に含めることもできそうです。

ただし,現在ではもう少し甘い純愛メロドラマとしてこの作品は見られることが多くなっています。ヴェルディ自身,パリの上流階級の人たちに対する警鐘の意味を込めて,この作品を書いたのですが,そういうメッセージを音楽の魅力が乗り越えてしまったところがあります。当時の「現代社会」を描いていたとしても,現代から見るとやはり古びてしまうところがあります。それに比べると恋愛という人間の感情の方は普遍性がより高いと言えます。特にヴィオレッタというヒロインが魅力的に描かれています。このオペラは,「ヴィオレッタのためのオペラ」と言っても過言ではありません。

それだけ,ヴィオレッタを演じる歌手に対する期待が高くなる作品です。ミラノ・スカラ座では1950年代にマリア・カラスが「椿姫」を歌って以来,その引退後,その呪縛が解けず,その後25年間もこの作品が上演されなかったという記録が残っているくらいです(そのカラスによるよい録音状態の「椿姫」が残っていないのも残念なことです)。見る方も演じる方もヴィオレッタ次第−という分かりやすい作品なのですが,歌唱の面での演技でも大変難しい役柄だけに,いろいろな点で怖さと難しさを持った作品となっています。

このオペラは,映画「プリティ・ウーマン」(ジュリア・ロバーツ,リチャード・ギア主演)の中で,サン・フランシスコまでオペラを2人で見に行くシーンで使わています。ジュリア・ロバーツが自分の身の上とヴィオレッタの役柄を重ね合わせながら,初めて見るイタリア・オペラに感動するという設定は効果的なものでした。この例のとおり,最初に見るオペラとしても最適の作品と言えます。

●登場人物とあらすじ
ヒロインは,パリ社交界の花形・高級娼婦のヴィオレッタ・ヴァレリー(ソプラノ)です。彼女に恋する純朴な青年紳士アルフレード・ジェルモン(テノール)がその相手方です。この2人に敵役(単純な悪役というよりは,もう少し複雑な役柄ですが)としてアルフレードの父親のジョルジュ・ジェルモン(バリトン)が登場します。その他,ヴィオレッタの友人・フローラ(メゾ・ソプラノ),アルフレードの友人たち,医者,召使などが登場しますが,アリアなどは歌いません。宴会シーンでは大勢のお客さんも登場しますが,主要登場人物はヴィオレッタ,アルフレード,ジョルジュの3人だけと言っても良いでしょう。

ストーリーは,シンプルなものです。第1幕のパーティの場で,パリ社交界の花形ヴィオレッタが田舎から出てきた青年紳士アルフレードと出会い,真実の愛に目覚めます。第2幕ではアルフレードの父親ジョルジュが登場し,家名を守るために分かれてくれとヴィオレッを説得しに来ます。ヴィオレッタはそのことを了承しますが,アルフレードの方はヴィオレッタが心変わりしたと思い込み,大勢のお客の前でヴィオレッタをなじります。第3幕では,ようやく父親の許しが出て,アルフレードの誤解も解けます。しかし,ヴィオレッタはすでに肺病に冒されており,喜びながら息を引き取ります。

●台本
イタリア語。アレクサンドル・デュマ・フィスの小説「椿姫(原題は"La Dame aus Camelias"といいます。この「椿姫」という日本語訳は森鴎外がつけたものと言われています。)」をフランチェスコ・マリア・ピアーヴェがオペラの台本化したものです。

●時代・場所
1850年代のパリの社交界とその郊外

●初演
1853年3月6日,ヴェネツィア・フェニーチェ座

■前奏曲
ヴィオレッタの運命を暗示するような悲しい美しさにあふれた有名な前奏曲です。単独で演奏されることもあります。

まず4部に分かれたヴァイオリンが哀しげなメロディをデリケートに演奏します。それが頂点が築いた後,少し静かになった後,低弦に確固としたリズムの刻みが出てきます。その上に,ヴィオレッタの純愛のモチーフとも言われる下降するような美しい主題が長調で出てきて,いろいろな楽器に引き継がれていきます。

この部分では,美しいメロディとともに,低音部が一定のリズムが印象的ですが,実際,「ヴィオレッタに捧げし歌」というタンゴにも編曲されており,こちらも大変よく知られています。その後,チェロがメロディを引き継ぎ,綾を成すようにヴァイオリンとの絡み合いを見せた後,そのまま消え入るように終わります。

第1幕 1850年10月。パリ。ヴィオレッタの家の客間
第1景:前奏曲とは一転して,幕が開くと,華やかなパーティの場になります。オーケストラが激しく上昇するような音型を2回演奏した後,わくわくさせるようなリズミカルな伴奏が出てきます。このリズムに乗って,パーティが進んでいきます。ちなみにいちばん最初に声を聞かせるのがヴィオレッタです。すぐにヴィオレッタが登場し,輝くような美しさを撒き散らします。一同が揃い「快楽こそが人生」と合唱で歌われます。

第2景:アルフレードがガストーネに連れられて来てヴィオレッタに紹介されます。「飲みましょう」という合唱の声に続いて,アルフレードの音頭で乾杯をすることになります。ここで歌われるのが有名な「乾杯の歌」です。きっぱりとした調子の良いワルツのリズムに乗って,アルフレードが口火を切って,享楽的な内容の歌詞を歌います。このメロディは「リゴレット」の「女心の歌」と同じような感じで覚えやすいメロディですので,各種イベント的コンサートなどで「皆さんご一緒に」という感じで歌われることがよくある曲です。このアルフレードの歌をヴィオレッタが受け,最後は合唱になります。

アルフレードの方は「快楽よりもまことの愛」と言っているのに対し,ヴィオレッタの方は「快楽こそすべて」と否定しますが,お互いにひかれ合って行きます。

続いて,「ワルツと二重唱」の部分になります。隣の部屋から軽快なワルツが聞こえてきえ,二人は幻想から引き戻されます。このワルツは舞台裏のバンダによる演奏です。ヴィオレッタは隣の部屋にどうぞ,と言ったところで「持病のめまいが...」という感じでよろめきます。ドゥフォール男爵が駆け寄ります。ヴィオレッタとドゥフォール男爵は目で会話をし,男爵は外に出ます。

第3景:ヴィオレッタの男爵へのまなざしを見て,アルフレードは身をひこうと思いますが,最後に2人だけで会話をしたいと思い,ヴィオレッタに近づきます。その後,2人による情熱的な二重唱になります。まず,アルフレードが1年も前から恋をしていたと甘く歌います。このメロディはその後も何回か出てきます。これに対してヴィオレッタはコロラトゥーラ風の軽やかなメロディで答え,心を動かしつつも,これに抵抗しようとします。次第に2人の声は溶け合い,歓喜に満ちてきます。

そこにガストーネが登場し,また現実に引き戻されます。現実に引き戻されるたびに舞台裏からワルツが聞こえてきます。「もう恋の話はよしましょう」というヴィオレッタにアルフレードは憤りますが,彼女は胸につけた花を引きちぎり「萎れた頃に返して」とアルフレッドの差し出します。二人の愛は通じ合い,「また明日」という言葉で二重唱は終わります。

第4景:隣の舞踏室から紳士淑女がなだれ込んで来て,この幕の冒頭に出てきたメロディと同じ合唱(「夜明けの合唱」)を力強く歌います。その集団が去った後,ヴィオレッタは一人になり,「不思議だわ(E strano!)」という言葉とつぶやきます。この言葉は後で何回か出てくるキーワードです。

第5景:この後は,今までになかった真実の恋に目覚めたヴィオレッタの自問自答をアリアにした第1幕のフィナーレになります。「ああ,そは彼の人か(Ah,fors'e lui)〜花から花へ(Sempre libera)」という2つの部分からなる「カヴァティーナ・カバレッタ」形式のアリアは,このオペラの最大の聞きところの一つです。

この,カヴァティーナ・カバレッタ形式は,ベルカント・オペラの伝統を受け継ぐ形式で,前半のゆったりとした部分(カヴァティーナ)と後半の急速な部分(カバレッタ)から成っています。このアリアは,この形式の最大傑作と言われています。単独で歌われることも多い名曲です。

突き上げてくるような表情を持った導入部分に続いて,ゆったりとした「ああ,そは彼の人か」の部分になります(やはり,これは文語調に「そは彼の...」とした方が感じが出ます)。幻のアルフレッドの姿を見るかのように呆然と歌われます。暗い表情が次第に明るく変わり,初めて真実の愛を知った喜びに包まれますが,一旦休符が入ると,ヴィオレッタは現実に戻ります。「馬鹿げた夢だ(Follie!Follie!)」と激しく全面否定します。

その後,テンポが速くなり「花から花へ」と呼ばれるカバレッタの部分になります。滑らかなメロディと軽快なワルツのリズムに乗って軽やかに快楽を歌います。すべてを振り払うような歌です。前半のシェーナの部分の重い表現とは違い,コロラトゥーラ・ソプラノ的な技法が要求されます。この役柄が難しいと言われる所以ですが,逆に言うと大変歌い甲斐のある曲ともいえます。

時折,アルフレードの声が遠くから聞こえてきますが(これはヴィオレッタの頭の中に浮かんだ情景でしょう),これを振り切ってさらに快楽の賛歌が続きます。最後の部分でまたアルフレードの声が蘇ってきますが,これを再度振り切って,歌い終わります。

この最後の部分は慣例で,3点変ホ音という超高音で締められることになっています。一旦,これが定着してしまうといまさら楽譜どおりで終わると物足りなく感じてしまいます。体操のウルトラCがどんどん進化していくようなものです。

第2幕第1場 第1幕から3ヶ月後。パリ近郊の田園風の家
第1景:短い序奏に続いて,のどかな田園生活をしているアルフレードが登場し,「あの人から離れて僕に喜びはない」というレチタティーヴォを歌います。続いて,ヴィオレッタへの愛を率直に歌う「燃える心を」と呼ばれるアリアになります。

第2景:不安な旋律とともに女中アンニーナが入ってきます。ヴィオレッタは生活のために自分の家具や馬車を売り払っているということを聞き,アルフレードは驚きます。

第3景:アルフレードが自分のうかつさを恥じ入る心情を述べる急速なカバレッタを歌います(カットされることの多い歌です)。そして,金を作るために村の郵便局に出かけます。

第4景:ヴィオレッタが家具売り渡し証書を持って入ってきます。フローラからの手紙を読みながら,一人で家具屋を待ちます。

第5景:アルフレードの父親のジェルモンが突然入ってきます。父親のいないヴィオレッタはジェルモンを本当の父親のように慕おうとしますが,「アルフレードはあなたに誘惑された」と言い,二人を分かれさせようと説得を始めます。その後,ジェルモンとヴィオレッタによる劇的な二重唱が始まります。この2人の応酬はこのオペラの見所の一つです。

まず,ジェルモンが「天使のように清らかな娘がいる(Pura siccome un un aggelo)。アルフレードとあなたが分かれなければ嫁いでいけない」と世間体を理由に離別を迫ります。この朗々としたメロディは非常にイタリア・オペラ的なものです。やわらかく軽やかなカンタービレは非常に印象的に響きます。ヴィオレッタは「しばらく別れましょう」と答えますが,完全に別れるようにと迫ると,ヴィオレッタは抑えていた感情を爆発させてしまいます。ここで歌われるのが,「あなたは知らない真実の愛を」という激しい曲です。

ジェルモンは「男は移り気なもの」と淡々とした調子の歌で反論し,ヴィオレッタの心をじわじわと突き刺します。ジェルモンがさらに「私の家の天使になって欲しい」と歌うと,ヴィオレッタは自分が犠牲になる決意をします。陶酔的な歌を歌って,自分の意志でアルフレードと別れる決意をします。ジェルモンは,「お泣きなさい,かわいそうな女よ」と慰めます。その後も聞き応えのある,二重唱が続いた後,ジェルモンは退場します。

第6景:ヴィオレッタはかつてのパトロンのドゥフォール男爵とアルフレードに手紙を書きます。その時,アルフレードが戻ってきます。ヴィオレッタは「いつまでも愛していてね」と言った後,振り切るように立ち去ります。ここで出てくるのが前奏曲のメロディです。この部分は,オペラ全体のクライマックスと言っても良い部分です。

第7景:その切実な胸中をアルフレードはわかりません。召使がそこでヴィオレッタから預かった手紙をアルフレードに渡します。

第8景:手紙は縁切り状で,アルフレードは発狂したようになります。その時,ジェルモンが入ってきます。ジェルモンを説得するために,有名な「プロヴァンスの陸と海」を歌います。これは子どもの頃,子守唄代わりに歌った故郷の歌という設定になっています。バリトンの高音域の柔らかさを堪能させてくれる名曲です。故郷で待つ老人の孤独を切々と歌う歌ですが,アルフレードはそれに反発します。ジェルモンのよる「いや,お前を責めはしない」というカバレッタの後(この曲は取ってつけたような感じになるため,カットされることの多い曲です),アルフレードは机の上にあったフローラの手紙を元にヴィオレッタの行き先を知り,その後を追います。

第2幕第2場 第1場と同じ日。フローラの家の客間
*公演によっては,この場の前に幕間を取る公演もあります。

第9景:華やかな音楽に続いてフローラ主催の夜会の場になります。主要な人物がヴィオレッタとアルフレッドの噂をしています。

第10景:まずジプシー女による合唱が始まります。仮装した女性が,タンバリンを手に躍り出て歌い踊ります。

第11景:続いてスペインの闘牛士の合唱となります。ガストーネを先頭に闘牛士が現れ,勇ましい歌を歌います。

第12景:アルフレードがやってきますが,ヴィオレッタをさらった張本人ということで冷ややかに迎えられます。フローラにヴィオレッタのことを尋ねられますが,「知らない」と答えます。そこにヴィオレッタがドゥフォール男爵と共に現れます。アルフレードは一瞬ひるみますが,ドゥフォール男爵が賭博に加わるとアルフレードも参加し,勝ちまくります。アルフレードは男爵に決闘を申し込みます。

第13景:ヴィオレッタが広間に戻ってきます。ヴィオレッタはアルフレードに向かって「ここから出て行って」と嘆願し,男爵を愛していると愛想尽かしの言葉を言います。怒ったアルフレードは,一同を呼びます。

第14景:アルフレードは全員が見守る中「私につぎ込んだ金を返してやる」と賭博もうけた金をヴィオレッタに叩きつけ,札束が宙を舞います。

第15景:ヴィオレッタは意識を失い,フローラの腕の中に倒れます。婦人を満座の中で侮辱した,と一同はアルフレードを非難します。そこに,ジェルモンが連れにやってきます。この有様を見て,激しく叱責します。ヴィオレッタは意識を取り返し,「いつかあの人は私の愛を分かってくれる」と願い,歌います。それぞれの思いを込めた壮大な合唱付き八重唱となった後,ジェルモンは息子を連れて立ち去ります。

第3幕 1851年2月。カーニバルの日。ヴィオレッタの寝室
第1景:ヴィオレッタは眠り,女中のアンニーナは編み物をしています。第3幕への前奏曲は,第1幕への前奏曲とほとんど同じメロディなのですが,華やかに盛り上がることはなく,ほとんど消え入るように終わります。これはヴィオレッタの健康状態を暗示しています。

冬の薄い日差しが入ってくる部屋に医者のグランヴィール医師がやってきます。

第2景:グランヴィールはヴィオレッタに「すぐによくなる」と言いますが,アンニーナには「明日をもしれない」と告げて去ります。

第3景:アンニーナは「今日の謝肉祭は賑やかになる」と元気づけます。ヴィオレッタはアンニーナに「貧しい人にお金を上げて」と小箱を差し出します。アンニーナは主人の言うとおりにして立ち去ります。

第4景:一人になったヴィオレッタはジェルモンの手紙を取り出して読みます。その手紙には,「アルフレードは男爵と決闘した後,外国に去っている。ヴィオレッタはアルフレードの将来を思って身を引いたことを知らせてある。アルフレードはきっとヴィオレッタの元に戻るだろう」ということが書いてあります。手紙を読んでいる間,以前アルフレードの歌っていたメロディが静かに流れます。持っていた手紙が落ちると「遅い」と怒りの言葉が出ます。オーボエの導入のメロディに続いて,ヴィオレッタは過去の栄華を振り返りながらアリア「過ぎ去った日々」を歌います。

窓の外からは謝肉祭の仮装の人たちの合唱「バッカナーレ」が聞こえてきます。ヴィオレッタは,それを過去の華やかな日々と重ね合わせます。

第5景:アンニーナが戻ってきて,アルフレードが来たことを知らせます。驚き喜ぶヴィオレッタとアルフレードはしっかりと抱き合います。ヴィオレッタはそのまま倒れてしまいます。そこで二重唱「パリを離れて」が歌われます。まずアルフレードが歌い始めます。続いてヴィオレッタも共に歌い,二人は未来を夢想します。音域は狭く,感情の飛躍を抑えるかのように優しく歌われます。特にヴィオレッタのパートはスタッカートで途切れがちに歌われます。

ヴィオレッタは元気を取り戻し,「教会に行って結婚式を挙げましょう」とせがみます。ヴィオレッタは夢うつつの中で教会の鐘の音と賛美歌を聞きます。ヴィオレッタは再び倒れます。この辺りは「ヴィオレッタの狂乱の場」という雰囲気になります。

アルフレードはアンニーナに医者を呼びにやります。アルフレードは「望みを捨てるな」と励まします。最後の方は小二重唱になります。

アンニーナが医者を連れてきた後,大詰めのフィナーレになります。ジェルモンが二人の仲を許すためにやってきます。悲痛な思いに溢れた五重唱が歌われた後,アルフレードが1幕で歌ったメロディが弱音で現れます。最後にヴィオレッタが燃え尽きる直前の火のようにふわりと立ち上がり「不思議だわ。苦しみがどこかに行って生まれ変わるようだ。嬉しい」とつぶやいたところで息を引き取ります。オーケストラが高鳴る中で幕が降ります。(2004/11/02)