ヴィヴァルディ Vivaldi

■協奏曲集「調和の霊感」op.3(全12曲)
ヴィヴァルディが最初に出版した協奏曲集です。それにしても「調和の霊感(L'estro armonico)」というのは,何とも魅力的なネーミングです。伝統からの束縛を脱して,自由に想像力を発揮する,といった意図がこめられているようですが,思わず聞いてみたくなりますね。曲集は12曲から成り,それぞれ編成が異なっています。


●第6番イ短調,op.3-6
「調和の霊感」の中のみならず,ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲中で,「四季」に次いでよく知られているのがこの曲でしょう。独奏ヴァイオリンと3声部からなる小編成の曲ということもあり,ヴァイオリンを勉強する人ならば必ず一度は演奏する練習曲的な曲となっています。

曲は,急−緩−急の3楽章から成る,典型的な「ヴィヴァルディらしい協奏曲」で,各楽章はそれぞれきっちりとまとまっています。トゥッティの部分で演奏されるメロディがソロの部分でも活用されるなど,楽章全体として緊密な雰囲気があるのが特徴です,

第1楽章 アレグロ イ短調 4/4 リトルネッロ形式
この曲は,イ短調ということで,シャープもフラットも付いていないのですが,冒頭からシンプルかつストレートな痛切を持った主題がトゥッティで演奏されます。この主題は4度音が上がった後,同音が反復されるフレーズで始まり,どこか可愛らしさも持っています。この主題に含まれる動機が,その後,何回も再現されることになります。

ソロの部分では,ヴァイオリンらしく細かく音型が積み重ねられますが,その中にトゥッティのフレーズとのつながりがある点が特徴です。このトゥッティとソロが交替しながら,曲は進みますが,楽章の最後の方では,この交替の周期が速くなり,切迫感が高まっているのが印象的です。

第2楽章 ラルゴ ニ短調 4/4 2部形式
14小節という短い楽章ですが,たっぷりと演奏されます。7小節ずつ前半と後半に分かれており,後半は前半の変奏という形になっています。独奏ヴァイオリンが美しくも哀愁を持ったメロディを演奏します。

第3楽章 プレスト イ短調 2/4 リトルネッロ形式
ヴィヴァルディの協奏曲には珍しく,2/4という拍子を取っています。冒頭のトゥッティの主題をはじめとして,きっぱりとした力強さがあるのが特徴です。主題後半部に出てくるフレーズは,第1楽章の冒頭主題を思わせる痛切な美しさを持っています。

その後,トゥティとソロが交替しますが,第1楽章同様,終盤でその交替の周期が速くなり,パッセージも華麗さを増しています。

●第10番ロ短調,op.3-10(4つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲)
独奏楽器にヴァイオリンが4つも入る曲というのは,あまり聞いたことはないのですが,ヴィヴァルディはこういうタイプの曲をいくつか作曲しています。実質は,合奏協奏曲と呼ばれる形式と大差はないようです。なお,バッハはこの曲を4台のチェンバロと弦楽合奏のための協奏曲(BWV.1065)に編曲しています。

第1楽章 アレグロ ロ短調 4/4 ヴィヴァルディの協奏曲は,独奏楽器(コンチェルティーノ)と合奏部(リピエーノ)が交互に演奏するようなパターンで作られています。まず,独奏ヴァイオリンによる主題で始まります。同じ旋律をリピエーノが演奏します。独奏楽器群がロ短調の物悲しい旋律を,受け渡し,絡み合わせながら進みます。

第2楽章 ラルゴ ロ短調 3/4 テンポはラルゴ−ラルゲット−アダージョ−ラルゴと変化します。ラルゴの部分は,付点リズムが特徴的です。ラルゲットの部分は,4つの独奏ヴァイオリンが異なったアーティキュレーション(スタッカート,スラー,テヌートなどフレーズの演奏法・区切り方)でアルペジオを演奏します。

第3楽章 アレグロ ロ短調 6/8 ジーグ(速い3拍子系のイギリスの舞曲)風の楽章です。楽章の最初にトゥッティ(全員で演奏)で主題が演奏されますが,その後は,ソロ楽器の自由な展開が中心となっています。トゥッティ主題が再現するのは,楽章の終結部のみとなっています。(2002/8/13)

●第11番ニ短調,op.3-10
独奏楽器:ヴァイオリン(2部),チェロ,合奏部:ヴァイオリン2部,ヴィオラ2部,通奏低音という編成で演奏されるコレッリの合奏協奏曲に近いタイプの協奏曲です。ただし,それほど協奏曲的な対比は明確につけられておらず,ポリフォニックな書法で書かれています。3楽章からなっていますが,楽章は切れ目無く演奏されるようになっています。ちなみに,バッハはこの曲をオルガン独奏用に編曲しています(BWV.596)。

第1楽章 アダージョ,ニ短調,3/4
2つの独奏ヴァイオリンによるカノンで始まります。この主題は分散和音と音階からなるメロディです。テンポがアダージョになり,短調の経過部になります。いくつかの調性を動いた後,アレグロの部分になります。ここは自由なフーガです。3つの展開がされた後,トゥッティとなります。低音の持続音の上にフーガが展開されます。最後はアダージョとなって楽章が終わります。

第2楽章 ラルゴ・エ・スピッカート,ニ短調,8/12
シチリアーノ様式で書かれた楽章です。独奏ヴァイオリンが哀愁のこもったメロディを歌っていきます。時々出てくる,ナポリの和音という独特の和音が効果的に使われています。

第3楽章 アレグロ,ニ短調,4/4
ソロ楽器が模倣しあうようなフレーズで始まります。ただし,このフレーズはリトルネッロ主題ではなく,後で展開されることはありません。トゥッティとソロとが自由に交替し,自己主張しあいながら進んでいきます。