渡辺俊幸 Watanabe

■NHK大河ドラマ「利家とまつ」の音楽
2002年のNHK大河ドラマ「利家とまつ:加賀百万石物語」のための音楽は,さだまさしの曲の編曲者などとしてもよく知られている渡辺俊幸さんが担当しました。大河ドラマの音楽は,1年間放送が続く限り,収録と共に書き続けられるので,この文章を書いている8月以降もどんどん増え続けていくわけですが,SONYから発売された「サウンドトラック盤」に収録された音楽が中心的なものです。

従来の大河ドラマでは,毎週,最初に流れるメインテーマをNHK交響楽団が演奏し,それ以外のBGM的な曲はスタジオ・ミュージシャンが演奏していたようですが,「利家とまつ」に限っては,「加賀百万石」の縁もあり,オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)が大々的に参加しています。テーマ音楽はNHK交響楽団との合同演奏ですが,それ以外のサントラ盤に収録されている主要テーマは,OEK単独の演奏となっています。

音楽の雰囲気としては,ハリウッド映画を思わせるスケール感のある曲や甘く流麗なものが多いのが特徴です。

●メインテーマ
毎週,番組の最初に流れているテーマ音楽です。このドラマの視聴者にはいちばん親しまれている曲です。

威厳のある序奏に続いて,映画「風とともに去りぬ」のタラのテーマを思わせる,大きなうねりのあるメロディが出てきます。タラのテーマほど音が跳ね上がらないのが,利家とまつの奥ゆかしさでしょうか?しばらく,おおらかでのどかな感じの部分が続いた後,感動を胸に秘めたような感じの部分になります(この部分は,ドラマの中でもクライマックスのBGMとして良く出てきます)。その後,テンポが速くなり,打楽器の伴奏の上に勇壮な音楽が出てきます。弦楽器の繰り返しの音型が印象的です。最後は,フルオーケストラによる強奏で豪快に結ばれます。

(追記)この曲には「颯流(そうりゅう)」というタイトルが付いていますが,このことは,サントラ盤を買わないとわかりません。この「颯」という字ですが,「さっそう」と入れて,「爽」を消すと入力できます(そうなると「さつりゅう」と呼びそうなものですが...)。

●永遠の愛
ドラマの後の「紀行」コーナーで流れている音楽です。メインテーマの次に親しまれている曲ですが,このメロディ自体は,メインテーマと全く同じものです。つまり,メインテーマのヴァリエーションということになります。テンポがぐっと遅くなり,ヴァイオリンソロで演奏されると,なかなか気づかないというのは面白いものです。ヴァイオリンソロの対旋律を演奏するホルンも聞きものです。

ちなみに,サントラ盤には,この「永遠の愛」は,2種類収録されています。テレビでは,1:30の短縮盤の方が演奏されています。

●まつのテーマ
このドラマでは,松島菜々子さん演じるまつの落ち着き・存在感を非常に強く描いています。その雰囲気を盛り上げるための音楽です。曲は,静かな気品を持った感じのフルートのメロディで始まります。それを弦楽器が弱音で受けます。少し調性が変わり,イングリッシュホルンで新しいメロディが出て来た後,まつの豊かな情愛を示すような部分になります。この部分は,ドラマでもとてもよく使われています。第1回のクライマックスでも大変効果的に使われていました。

●利家のテーマ
唐沢寿明さん演じる,利家はもう一人の主役ですが,音楽の方も,主役としての威厳を表現するとともに,まつ同様,情感の豊かさを感じさせる雰囲気となっています。曲の途中では,血気盛んなイメージも想起させてくれます。

まずイングリッシュホルンでさりげなく始まります。この楽器はまつのテーマにも使われていましたので,渡辺さんの好みなのかもしれません。しばらく,静かな感じで進んだ後,弦楽合奏で心に染みるメロディが演奏されます。利家の律儀さ,情の深さなどを感じさせてくれます。この部分もドラマでよく使われています。その後,映画「スーパーマン」のテーマと似たはずむようなリズムの上でホルンなどの管楽器群がうきうきとした感じのメロディを演奏します。一息着くと,ちょっと渋い感じの曲想に一転し,このまま静かに終わります。トランペットの高音が印象的な部分です。(2002/8/13)