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ウェーバー Weber
クラリネット協奏曲

歌劇「魔弾の射手」の中にもクラリネットのすばらしいソロが出てくるようにウェーバは,クラリネットのための曲を沢山書きました。しかし,それは,特定の年に集中しています。1811年です。この年,ウェーバーがミュンヘンに行った際,宮廷クラリネット奏者のハインリヒ・ベールマンという名演奏家と知り合いました。彼と意気投合したウェーバーは,まず,彼の独奏のためにクラリネット・コンチェルティーノを作曲しました。これを聞いて感激したバイエルン王マクシミリアン1世は,さらに2曲の協奏曲の作曲依頼をします。それによって作られたのが,この2曲のクラリネット協奏曲です(それにしても同じ年に3曲の協奏的作品を一気に書き上げてしまうというのは,なかなかすごいことです。)。

ウェーバーは,クラリネットのための協奏的作品を3曲,五重奏曲を1曲,ピアノとの二重奏を1曲書いていますが,これらの作品は,いずれもベールマンという名演奏家がいなければ作曲されなかったものです。名演奏家と名作曲家との出会いによって,名作が後世に残ることになった良い例と言えます。

このベルマンという人は「全音域に渡る音の均一性」が高く評価されていた奏者ですが,この2曲の協奏曲は,古典的な形式の中に幅広い音域と名技性とロマンティックな味わいとを兼ね備えた作品となっています。この2つの協奏曲は,第1番が暗めであるのに対し,第2番は明るく軽快で,対照的な気分を持っています。どちらかというと,クラリネットのいろいろなキャラクターを豪華に聞かせてくれる,ヴィルトーゾ風の技巧を凝らした第1番の方が演奏される機会が多いようです。

■第1番ヘ短調op.73
第1楽章
アレグロ,ヘ短調,3/4,自由なソナタ形式
冒頭,低弦によって第1主題の動機となるような音型が神秘的に演奏された後,木管楽器とヴァイオリンによって暗い情熱を秘めた第1楽章が力強く演奏されます。その後,一旦潮が引くように曲は静かになり,独奏クラリネットが第1主題をメランコリックに歌い始めます。オペラの主役がお待ちかねのアリアを歌い始めるような,大変魅力的で思わせぶりなクラリネットの入り方です。伴奏部との応答が続いた後,曲は変イ長調に変わり,クラリネットが伸びやかに第2主題を演奏します。こちらの方はより華麗で,カデンツァのように技巧を聞かせてくれます。

その後,展開部となり,クラリネットが美しいカンタービレと技巧を聞かせます。再現部は第1主題のみが再現されます。その後,静かなコーダとなり消え入るように終わります。

第2楽章 
アダージョ・マ・ノン・トロッポ,ハ長調,4/4,歌謡三部形式
歌劇「魔弾の射手」序曲の伴奏を思い出させるような弦楽器の静かなざわめきの上にクラリネットが落ち着きのある甘いメロディをたっぷりと歌います。ドイツ・ロマン派らしく,素朴さと豊かな気分とを濃く感じさせてくれる楽章です。

中間部は短調に変わります。オーケストラによる力強い演奏を装飾するように独奏クラリネットが絡んできます。その後,再度落ち着いた雰囲気に戻り,第1部が再現されます。最後はクラリネットとホルンだけとなり,消え入るように終わります。

第3楽章 
ロンド,アレグレット,ヘ長調,2/4
冒頭,独奏クラリネットが,「しゃべりたくて,しゃべりたくて」と歌詞を付けられそうな大変闊達で軽快なロンド主題を演奏します。この主題は4回繰り返され,その間に機知に富んだ副主題が挿入されます。途中1度,はっきりとした和音が鳴り,一旦曲が終わったようになりますが,その後,何もなかったようにメランコリックなメロディが出てきたり,まさに緩急自在の楽章です。楽章の後半では情熱的になり,クラリネットの名技性を,これでもか,これでもかと見せ付けながら終わります。

こういう華やかな作品を作ることが可能になったのは,上述のとおりベールマンという存在の影響が大きいのですが,半音階のパッセージなども自由に演奏できるようになった,クラリネットという楽器の発達なしには実現しなかったものです。(2007/06/09)