ウェーバー Weber

■歌劇「魔弾の射手」

ドイツ語によるオペラは,イタリア語のオペラよりもかなり歴史が浅いのですが,19世紀前半に書かれた歌劇「魔弾の射手」はドイツ・オペラの地位を固めた記念碑的なオペラです。このオペラの後,ワーグナーによる歌劇・楽劇への道が開かれました。

このオペラは,ドイツの民衆的な伝説や民謡に基づいた作品で,17世紀のボヘミアの森を舞台に物語は展開します。若い猟師マックスは,愛するアガーテを失いたくないばかりに友人カスパールにそそのかされて,悪魔サミュエルの息のかかった「伝説の魔弾」で射撃大会に臨みます。この魔弾は最後の1発が悪魔サミュエルが自在に操られるように仕組まれています。

それを知らずにマックスが撃った最後の1発は,アガーテの方に向かいます。しかし,白バラに守られたアガーテは助かり,木陰に潜んでいたカスパールに当たります。事情を知った領主はマックスの追放を命じます。その時,隠者が1年の猶予を提案し,領主も従います。正義に背かなければアガーテとの結婚を許すということになり,喜びの中,人々は天の神に感謝します。

オペラとしては,全体的に地味目ですが,森の雰囲気を表すようなホルンの響き,素朴で力強い合唱の活躍などドイツ的な魅力に溢れた作品となっています。清らかな娘の愛情で罪が許されるというストーリーもワーグナーの曲と共通するものがあります。

■序曲
オペラの中で出てくるいろいろな動機が現れる「オペラ全体の縮図」のような序曲らしい序曲です。オーケストラの演奏会でも取り上げられる機会の多い名曲です。

曲は自由なソナタ形式で書かれています。まず,荘重なユニゾンで始まる序奏から始まります。その後,弦楽器による静かな伴奏に乗って,有名なホルン四重奏が出てきます。このメロディは,「賛美歌」としても知られる大変美しいものです。日本では「秋の夜半」という名前でも知られています。このオペラでは,この部分の他にもホルンが隋所で出てきますが,その響きによって狩猟や森の雰囲気をうまく作り出しています。

不安な気分を盛り上げるトレモロの後,主部に入ります。第1主題はドラマの舞台となる「狼谷」の音楽です。クラリネットに神秘的なメロディが出てきます。シンコペーションのリズムの後,悪魔の力を暗示するような緊迫感のある部分になります。ホルンのファンファーレの後,いかにもウェーバーらしい,魅力的なクラリネット・ソロが出てきます。その後,気分が変わりアガーテの歌う歓喜の歌による第2主題になります。弦楽器の響きが大変爽やかです。

この2つの主題は文字通り善と悪の対比を表現したもので,展開部でもこの対比を中心にドラマティックに進みます。再現部でも第1主題はクラリネットに出てきます。その後,不吉な雰囲気になり,曲は静かになります。大きな休符が入った後,コーダに入ります。

堂々と見得を切るようにバーンと音が出てきた後,そのエネルギーを生かして,勢いのある音楽が始まります。やがてアガーテのテーマが出てきて,善が悪に勝つような形で全曲が明るく結ばれます。(2004/07/13)