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ウェーバー Weber
舞踏への勧誘 Aufforderung zum Tanz,op.65

「勧誘」というと,「悪徳セールス」などを思い浮かべる人もいらっしゃるかもしれませんが,この曲は,一般に「舞踏への勧誘」というかなり硬い訳で知られ,それが定着しています。ドイツ語の原題は"Aufforderung zum Tanz", 英訳は"Invitation to the dance"ですので,「お誘い」ぐらいが良いのかもしれません。しかし,定着してみるとやはり,この曲の気分は「舞踏への勧誘」という,ちょっとレトロな感じの言葉でないとしっくり来ないようなところもあります。

というわけで,この曲は,ウェーバーの代表曲として大変よく知られている人気のある作品です。舞踏会に誘う紳士とそれを受ける淑女,華やかな舞踏会,そして別れ,という一連の流れを独創的で魅力的な音楽で描写しています。古典派時代までのワルツというのは,素朴な民族舞曲的なものでしたが,この曲は,それをロマン派音楽の特徴の一つである標題音楽にまで高めた曲と言われています。

この曲には「華麗なロンド(Rondo Brillante)」というサブタイトルも付いていますが,ショパンの「華麗なる大円舞曲」に通じる詩的な雰囲気と,ヨハン・シュトラウスに通じるよくこなれた実用的な雰囲気とがバランス良く調和しています。いずれにしても,誰が聞いても幸せな気分に浸ることのできる,”よくできた曲”です。

曲は,序奏,主部,後奏という3つの部分から出来ています。

序奏部は,紳士が淑女を誘う部分の描写です。曲は男性のセリフを描写する低音域から上に上っていくような音型から始まります。これを女性を描写する高音部が受けます。最初のうち,女性は遠慮がちに断りますが,あれこれやり取りがあり,再度誘いの音型が出てくると,今度は女性の方はそれを承知します。

そして,華やかな舞踏会を描写する主部に入ってきます。まさに"Brillante!"という言葉そのものの,弾けるようなワルツで始まります。このワルツがロンド主題として,以後何度も出てきます。この曲を作曲した頃,ウェーバーは,オペラ歌手のカロリーネと結婚したばかりの新婚時代でしたが,その気分を表すかのような幸せな音楽が続きます。途中に出てくる弱音で演奏される軽やかに弾むワルツのメロディも大変有名ですが,この部分などにも,仲むつまじい雰囲気が出ています。その後,曲は一旦短調になったりして,ドラマティックな感じになりますが,それほど深刻な事態にはならず,さらに舞踏会は続きます。そして,さらに華やかに盛り上がった後,力強い和音で舞踏会が終わります。

この部分ですが,初めてこの曲を聞いた人は,ここで曲が終わったと思い,拍手をしてしまいます。それも当然というほど堂々とした和音なのですが...さらにこの後,曲は続きます。ウェーバーが意図していたのかどうかは分かりませんが,恐らく,すべてのクラシック音楽中最大の「ひっかけ」ではないかと思います。

舞踏会が終わったあと,短い後奏部になります。序奏部に出てきたのと同じような男性の言葉を表す音型が,低音部に優しく出てきた後,「どうもありがとう」と語っているかのような音型がそれを受けて,静かに曲は終わります。

ちなみに,この曲は,ベルリオーズによる管弦楽編曲版でも大変よく知られています。CD録音の数から言うと,この版による演奏の方が圧倒的に多くなっています。編曲版では,男性の誘いがチェロ,女性の受け答えが木管楽器という感じになっていますが,まさにイメージどおりです。ピアノ版は変ニ長調で書かれているのに対し,管弦楽版は半音上のニ長調に移調されていますので,舞踏会の部分の華やかさもピアノ版を上回っています。ピアノ版の方には,サロン音楽風の親しみやすさがありますので,聞き比べをしてみるのも一興でしょう。(2007/06/10)