第79回Museum concert
ロシアン・ファンタジー:ロシア・ヴァイオリン名曲選

97/10/19 石川県立美術館ホール

1)ショスタコーヴィチ/ヴァイオリンとピアノのための小品から4曲
2)プロコフィエフ/ヴァイオリン・ソナタ第1番ヘ短調,op.80
3)チャイコフスキー/なつかしい土地の思い出,op.42〜第3曲メロディ
4)ラフマニノフ/ヴォカリーズ,op.34−14
5)ストラヴィンスキー/イタリア組曲
(アンコール)
6)グラズノフ/スペインのセレナード
●演奏
鈴木理恵子(Vn)/浦壁信二(Pf)

今回報告する演奏会は,石川県立美術館のホールで行われた無料のリサイタルです。この美術館で現在行われている「イルクーツク州立美術館所蔵:15〜18世紀のロシア美術”イコンと絵画”展」に併せての企画です。この美術館は,美術館というよりは博物館に近い美術館で常設展示も企画展示も古臭く保守的なものが多いのですが,館内にあるホールで時々行われるコンサートは,従来から一流の演奏家を招き,私も何回も参加してきました。前橋汀子さんのバッハの無伴奏ヴァイオリオン・ソナタとパルティータ全曲など無料でなくても人が集まりそうな企画が沢山ありました。このホールは音楽専用ではないので美しい響きがするわけではないのですが,収容人数が200〜300人ほどの小ホールなのでダイレクトな迫力のある音が楽しめます。

演奏者は,新日本フィルのアシスタント・コンサートマスターの鈴木理恵子さんという若いヴァイオリニストです。パンフレットによると桐朋学園出身でサイトウ・キネンにも毎回されているとのことです。”美しき実力派として注目される”と書いてありましたが確かにそのとおりの方でした。

プログラムは,すべてロシアもので,アンコールも含めると6曲で6人の作曲家という面白いものでした。ただ,演奏会の前に曲目を知らなかったので(しかもパンフレットにも曲の詳細な解説がほとんどなかった)前半のプロフィエフは少々手に余りました。予備知識なしで漠然と聞いたので「ショスタコーヴィチに似た深刻で暗い大曲」という印象しか持てませんでした。弱音のトレモロの美しさや変わったピチカート(?)などところどころ印象に残るところがあったのですが,全体としては,つみどころがなく,あまり面白く聞けませんでした。深い内容を持ち,それをきちんと演奏していたことは十分伝わったので,CDなどで予習して聴けばもう少し印象が変わったと思います。

それ以外の曲は聞きやすい曲や聞いたことのある曲ばかりでした。ショスタコーヴィチの曲は彼の軽い面をよく表していました。聞いたことのない曲でしたが,コンサートの手始めには良い選曲でした。後半の最初のメロディとヴォカリーズは両方とも旋律をたっぷり聴かせる曲ですが,甘くなり過ぎることも,形が崩れることもなく,模範的な演奏でした。

最後のイタリア組曲はバレエ音楽のプルチネルラのヴァイオリン組曲版です。私はプルチネルラしか聞いたことはありませんが,その中の曲とほぼ同じ曲のようでした。そのせいもあって,この演奏を聞きながらオーケストラの響きを(具体的には小沢征爾/水戸COの演奏)思い浮かべてしまいまいした。それが災いしてか,この演奏はあまり楽しめませんでした。ヴァイオリン版の方がかえって重たく,粘っこく感じたからです。例えば,タランテラなどでは,水戸COの演奏は,非常に軽やかなのに,今回の演奏では1人で演奏しているにも関わらずもたれた感じに聞こえました。それと最後の曲で疲れが出てきたのか演奏が少々粗いような気がしました(お客さんのノリの悪いコンサートだったのでそのことが反映したのかもしれません。)。というわけで,この曲については管弦楽版の方が楽しめると思いました。

アンコール曲はグラズノフの小品でこれで,6人目の作曲家ということになりました。もう少し盛り上がって,ハチャトゥリアンの曲などやってくれれば面白かったと思います。

知名度の高くない方だったせいか,お客さんの反応が今一つだったのが残念でしたが,鈴木理恵子さん自身は確実な演奏をされる方だと思いました。プロコフィエフについては,クレーメルの演奏などでもう一度CDで聞いてみたいなと思いました。