オーケストラ・アンサンブル金沢スペシャル公演
97/12/10 金沢市観光会館

シューベルト(鈴木行一編曲)/歌曲集「冬の旅」D.911
●演奏
ヘルマン・プライ(Br),岩城宏之/Oens金沢

この演奏会は今年の2月に行われる予定だったのですが,プライさんの体調の都合で延期されたものです。その時が,管弦楽伴奏版冬の旅の世界初演になるはずだったのですが,初演は今年10月のドイツ公演まで延期されました。延期が決まった時はがっかりしたのですが...月日の経つのは速いものです。

金沢は演奏会当日は雪混じりの天候で,演奏会場までの行き帰りはまさに「冬の旅」になってしまいました。その天候のせいもあってかお客さんの入りは福井同様,7割程でした。やはり,料金設定のせいだと思います。S席の空席を取り囲むようにドーナツ型に席が埋まっていたのがその証拠です。とはいえ「冬の旅」をしてわざわざ演奏会場まで来たお客さんは熱心な方が多い印象を受けました(金沢ではS席8000円が最高でした。福井の新しい立派なホールと違うので10000円というわけにはいかないのでしょう。友の会会員は2000円割引で買えたので,私はA席(6000円→4000円)で聞きました。”特別”公演ではなく"スペシャル"公演というところが高い理由なのでしょうか?ちなみに大阪の方は特別公演となっていました。)。

オーケストラの配置,照明等は福井と全く同じで,暗闇の中でプライさんだけがスポットライトを浴びているような感じでした。ただ,全曲連続演奏ではありませんでした。12曲目の「孤独」が終わったことろで,休憩がありました。その時,中断についての岩城さんのコメントがありました。ピアノ伴奏版と違い管弦楽伴奏版だと疲れ方が激しいので,今回はこのようにすることに決めた,とのことでした。やはり,演奏会が続き疲れが溜まっているのでしょう。恐らく,大阪でも休憩が入ると思います。この時に,最後の辻音楽師が終わってもフライングの拍手はしないで欲しいというお願いもありました。この辺りは結構プライさんに気を遣っている印象を受けました。これまでの別の演奏会でも静かな曲でのフライング拍手に雰囲気を壊されたことが何度かあったので(演奏者から言うのも妙な気もしますが)聴衆教育という意味では(特に地方都市では),言って頂いて良かったような気もします。

冬の旅を生で聞くのは初めてなのですが,この編曲は楽しめました。初めて聞く人には単色のピアノ伴奏よりも面白く聴けるのではないでしょうか?ピアノ伴奏のCDでは,暗い曲が皆同じように聞えて,なじみにくかったのですが,管弦楽伴奏版だと楽器の使い方によってかなり変化があり,飽きずに聞くことができました。終曲の辻音楽師をはじめとして,全般に木管楽器がうまく使われていたと思います。最後の最後で音が少し大きくなって金管が加わるところなどマーラーの歌曲の終曲といったような響きでした。その他では,小編成のチェロとコントラバスだけの伴奏による「幻の太陽」も印象的でした。トランペットやティンパニの入る派手目の曲はちょっと小回りがきかない感じもしたのですが,シューベルトらしさを壊さずに,イメージを広げるような良い編曲だったと思います。

プライさんについては,やはり最善のコンデションではなかったと思いました。特に前半は,弱音で歌っているというよりは精彩がないような印象を受けました。さすがに曲が進むにつれて,良くなってきましたが,もう少し生き生きとした表現も聴きたい気もしました(曲が冬の旅だけに徹底的に枯れた感じも良いと思ったのですが,フィッシャー=ディースカウのCDで予習をしたために比較してそう思ったのかもしれません。同じバリトンでもフィッシャー=ディースカウの方はかなり高い声で歌っているように聞えます。)。とはいえ,独特のちょっと甘く流れるような歌い回しなど魅力的な部分も沢山ありました。音程も全般にフラットしている感じでしたが,こちらの方はだんだんなじんで来て,それほど気になりませんでした。

プライさんはテンポの動きをはじめ結構自由な感じで歌っている印象を受けましたが,岩城さんはこれにぴったりと付けていました。管弦楽伴奏版だと間延びするような気もしたのですが,そうならなかったのは岩城さんの的確な指揮のおかげでしょう。

演奏会終了後,地元ファンへのサービスのために,プライさんと岩城さんのサイン会が行われました。プライさんのサインをもらう機会など2度とないかもしれないので,CDにサインを頂きました。丁寧に書いていただき良い記念になりました。こういうサイン会があるのは,恐らく,金沢だけかもしれません。

なお,今年の10月7日(実は私の誕生日なのですが)にミュンヘンで行われたこの管弦楽伴奏版「冬の旅」全曲の演奏が早くもCD化されました。メジャーなCD会社からの発売ではなく,石川県音楽文化振興事業団が制作したものです(OEKレーベルとでもいうのでしょうか?)。恐らく,石川県内のCDショップとOEKの演奏会場でしか入手できないものだと思います。私は「サインの色紙」として早速購入しました。対訳もライナーノーツもしっかりしているし(DGのCDと同じような感じです。),ちょっと聞いたところ録音も悪くはないと思いました。この編曲に関心にある方はお買い求めになられたらいかがでしょうか。CD番号,発売元等は次のとおりです。
CD番号:OEK−1001 ¥2,800(税込み)
発売元:(財)石川県音楽文化振興事業団