金沢大学フィルハーモニー管弦楽団第58回定期演奏会
98/01/17金沢市観光会館

1)ベートーヴェン/歌劇「フィデリオ」序曲,op.72b
2)ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調,op.125「合唱付き」
●演奏
金洪才/金沢大学PO/平井香織(S),横町あゆみ(A),今村薫(T),及川尚志(br)/唱Cho(合唱指揮:及川尚志)

今回報告する演奏会は,(指揮者以外は)アマチュアによるものです。アマチュアのオーケストラと合唱団とソリストで第9が演奏されるのは,恐らく,石川県内では初めてのことだと思うので,記録として残しておこうと思います。

第9には本来季節感などないはずなのですが,この時期に聴くというのも珍しいことです。演奏は金沢大学の学生のオーケストラと唱合唱団(”しょう”と読むようです。”アマチュアの精鋭”(ビラによる)45人による小編成の臨時の合唱団)に県内在住の”セミプロ級”(同じくビラによる)のソリストが加わったものです。「意欲のあるアマチュアの熱意」というビラの文句に惹かれて1000円(アマチュアにしては高い方だと思います。)を払って出かけてみました。

聴いた感想は,「宣伝に偽りはない」というものでした。もちろんオーケストラの弦楽器の音程の悪さとか,管楽器のミス,全体の音量といったアマチュア特有の欠点はあるのですが,そういうのに目をつぶると立派な演奏だったのではないかと思いました。特に,敢えて小人数で挑戦した合唱は,歌詞が聞き取れるぐらい清澄な感じに聞こえました。「老いも若きも」の年末恒例の大合唱だと音量はあっても明瞭な感じにはならないのですが,この演奏では個々の実力が高いせいか,しっかりと歌っているのがよくわかりました。オーケストラがアマチュアだったので音量の面でも,かえってバランスが良かったのかもしれません。

ソリストもアマチュアだったので,聞く前は少々不安に思っていたのですが,皆さん立派に誠実に歌っていたと思います。確かに,声量の面では物足りない気はしたのですが,合唱団の前にアマチュアのソロが4人がいるというのは,「民衆の代表」という感じで,歌の精神にはかえって近い気がしました。(下手な)プロの歌手がビブラートをいっぱいつけて歌うよりは好ましくさえ思いました。

オーケストラは,3楽章のホルン,4楽章冒頭の低弦をはじめとして,各楽章の聴きどころをクリアしていたのではないかと思います。いつもオーケストラ・アンサンブル金沢という小編成のオーケストラばかり聴いているので,たとえアマチュアでも充実したトゥッティの音を聞くと,嬉しくなります。金さんの指揮も率直でキビキビとしていて,新鮮な感じでしたが,第1楽章,第3楽章などは,やはり学生オーケストラの表現力の限界のせいか,少々眠くなりました。

第9に先立って,フィデリオの序曲が演奏されました。こちらの方は最初の方のホルンのソロが見事に失敗し,聴いている方もヒヤリとしてしまいました。チューニングがやけに長く,音がなかなか合わないのもドキドキしてしまいましたが,この辺りはアマチュアならでの光景でしょう。ただ,10分もかからない曲の後に15分の休憩があったのはちょっと妙でした。何はともあれ,金沢大学のオーケストラにとって記念すべき演奏会が成功に終わったことを喜びたいと思います。