オーケストラ・アンサンブル金沢第70回定期公演
98/02/02金沢市観光会館

1)シューベルト/交響曲第5番変ロ長調,D.485
2)シューベルト/ミサ曲第6番変ホ長調,D.950
●演奏
パブレ・デシュパイ/OEns金沢,OEns金沢Cho(大谷研二合唱指揮)/小林加代子(S),与田朝子(A),吉田浩之,高田正人(T),太田直樹(B)

1998年最初のOEKの定期演奏会は毎年この時期の恒例となっている合唱付きの宗教曲を中心としたプログラムです。めったに聴くことのできないシューベルトのミサ曲ということで楽しみにして出かけました。地元のアマチュアによる合唱団なので親類・家族・知人関係で満員になるかと思ったのですが(私の知人も参加しています。),地味な曲,知名度の低い指揮者のせいか空席がかなり目立ちました。

この日は演奏に先立ち,合唱指揮の大谷研二氏によるミサ曲第6番についてのプレ・トークがありました。曲のポイントが親しみやすい語り口で説明され,非常に参考になりました。ピアノ伴奏付きの合唱を交えての大変わかりやすい説明でした。ミサ曲の典型的な配列さえよく知らなかったので,この話を聞いたのと聞かなかったのでは楽しみ方の度合いがかなり違っていたのではないか,と思いました。ミサ曲の基本以外にも,シューベルトの和声進行の大胆さとかアニュス・デイでの十字架音型だとか好奇心を沸かせてくれるような話もありました。こういう企画は(説明する人の適性にもよると思うのですが)是非続けてもらいたいものです。

前半は,OEK向けの編成のシューベルトの第5交響曲でした。指揮のパヴレ・デシュパイという(ユーゴスラビア?の)方は素朴で温かいベテランという雰囲気でした。その印象どおり,素朴で穏やかな演奏で,悪くはなかったのですが,私には「無難にまとめたミサの前座」という風に聞えました。各楽器の音色も生気がないように思えました。

後半のミサ曲の方は,プレ・トークの効果もあって十分楽しめました。神秘的なキリエ,鮮烈なア・カペラで始まるグロリア,テノールのデュオという珍しい重唱(しかし非常に美しい)を含むクレド,大胆な和声進行で始まるサンクトゥス,そして半音進行による不気味な雰囲気で始まり「平和を与えたまえ」という祈りの言葉で終わるアニュス・デイ。と,各曲とも楽しむことができました。

アーメンで終わる曲がいくつかあったのですが,いずれもテンポを落としながら微妙にデクレッシェンドするのが印象的でした。その優しい感じが宗教的な美しさになっていました。この指揮者は柔らかい音が好みのようで,この曲には相応しいと思いました。グロリアなど華やかな部分もあるのですが,派手で軽薄な感じを与えず,常に素朴さを残しているのが印象的でした。巨匠タイプの指揮者ではありませんが,この曲に対する愛着が感じられたのが何よりも良い点だと思いました。OEK合唱団もシューベルトに相応しい暖かい響きを出していました。この合唱団は大谷研二氏の指導の下で安定した実力をつけてきていると思います。

オーケストラでは,エキストラのトロンボーン3本の出番が多いように見えました。このトロンボーンの響きが柔らかさを醸し出していたようです。その他の管楽器も暖かい色合いを作っていましたが,第1オーボエの音だけが目立って,バランスが悪くなっている箇所があったのが少々気になりました。

ソリストでは(意外に出番が少なかったですが),テノールの吉田浩之さんのリリカルな歌い方がいちばん印象に残っています。バスの太田直樹さんという名前はどこかで見たことがあるなと思って,あれこれ考えていたのですが,レコード芸術の声楽曲の再発盤の月評担当者の名前と同じだとわかりました。同じ方なのでしょうか?

というようなわけで,今回の演奏会では,シューベルトのミサ曲第6番という地味ながらもシューベルトらしい親しみやすさと最晩年の味わい深さを兼ね備えた美しい曲にめぐり合うことができました。演奏会を通じて,レパートリー(?)が増えていくというのは,何よりもの楽しみです。

なお,この演奏会と同じプログラム(合唱団だけ別)の演奏会は,2月4日に名古屋でも行われます。