コンラディン・グロート公開レッスン&リサイタル
98/02/10金沢市民芸術ホール

(公開レッスン)
1)ガブリエル/第一旋法によるカンツォン
●演奏
金沢大学アカデミアブラスEns
2)エワード/金管五重奏曲第1番,op.5
●演奏
京都大学交響楽団近衛金管Ens
(リサイタル)
3)モーツァルト/ポストホルン・セレナーデから
4)ボザ/フリガリアーナ
5)ヒンデミット/トランペットのためのソナタ
6)エネスコ/レジェンド
7)ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー
(アンコール)
8)不明
9)浜辺の歌
●演奏
コンラディン・グロート(Tp),森島英子(Pf)

今回報告するのはベルリン・フィルの主席トランペット奏者のコンラディン・グロートという人の公開レッスンとリサイタルです。一昨年以来このホールでエマニュエル・パユ(こんなにメジャーになるとは思いませんでした),ペーター・シュミードルと有名オーケストラの管楽器奏者による演奏会がシリーズで行われているのですが,今回のリサイタルもその一環です。公開レッスンというものを見るのは初めてだったのですが,なかなか面白いものでした。

前半は,金沢大学フィルのトランペット,トロンボーン奏者によるアンサンブルと京都大学交響楽団の金管五重奏に演奏に対する公開レッスンでした。ドイツ語の通訳を交えて行われたのですが,口で説明するよりも,グロート氏の音を聞けばわかるような感じでした。それぐらいアマチュアとはレベルの違う高級でよく通る音でした。グロート氏は,胸板の厚い,長身の紳士なのですが,その体格と雰囲気に相応しい音だと思いました。金大のレッスンの時は「ブルックナーの交響曲第7番のスケルツォのような波打つようなリズムで」といってその一節を吹いてくれたのが印象的でした。一節弾いただけで雰囲気が出たのには驚きました。やはり,ソリストというよりは,オケの中の一員なのだ,と痛感しました(そのせいかソロCDも少ないようです)。こういう抜けるような音で一度ブルックナー聴いてみたいものです。

レッスンを受けた2つのアンサンブルでは,地元ひいきではありませんが金大の方がまとまっていたと思いました。京大の方は(名前に近衛というのが入っていたので御所かどこかの警備をしているのかと一瞬思いました。)個人の技量に少々問題があるような感じでした。

後半は,グロート氏とピアノ伴奏によるリサイタルでした。最初の曲はポストホルンによる独奏でした。この楽器をソロで聴くこと自体初めてのことでした。素朴な味のある音でした。

次の3曲はいずれも聴いたことのない曲ばかりでした。ボザの曲は,フランス風+ジャズ風。ヒンデミットの曲は,3楽章が葬送行進曲の暗い曲。マーラーの交響曲第5番風。エネスコの曲は,ヴィルトーゾ風の終わり方が印象に残りました。ヒンデミットの曲をはじめかなり地味な曲ばかりだったのですが,グロート氏の滑らかでよく通る音のおかげで全く退屈しませんでした。細かいミスも結構あったように聞えたのですが,ミスは気にしていないようでした。その大らかさのせいかミスがあっても全然不満には思いませんでした。完璧というわけではないが,非常に洗練されているという不思議な印象は,ベルリン・フィルの主席奏者という地位のせいかもしれません。

最後の曲は,恐らくグロート氏の編曲と思われるラプソディ・イン・ブルーでした。この曲はやはり原曲の方が良い(生で聴いたことはないのですが)と改めて思いましたが,ミュートをはじめいろいろな音色が聴けて楽しめました。冒頭のグリッサンドの部分はどういう技法を使っているのかわかりませんでしたが,ラッパから声を出しているように聞えました。

アンコールの1曲目は「グロート氏の先生の作った有名な小品(と英語で言ったように聞えました)」ということでしたが聞いたことのない曲でした。変奏曲のような感じの曲で,アンコールとして吹きなれているようでした。

アンコールの2曲目は出演者全員による「浜辺の歌」の合奏でした。この曲のメロディはいかにもトランペット向けなのでアンコールにふさわしいと思いました。が,全員で合奏となるといかにも垢抜けない感じでした。というようなわけで,そんなに大きくないホールで聞く,一流の奏者による管楽器の演奏会というのは良いものだな,と改めて感じました。

PS.このところ演奏会の会場でCDを買うことが増えてきているのですが今回も次のような見慣れないCDを売っていたので買ってしまいました。

"Trompete und Orgel in St.Johannis Luneburg / Konradin Groth und Dietrich von Amsberg" AGK 12-401. 録音1994年

解説もすべてドイツ語で内容がよくわからないのですが,トランペットとオルガンによるバロック音楽が8曲収録されています。演奏会で聴いたとおりの非常に抜けの良いトランペットの音を聴くことができます。なお,今回グロート氏は日本でCDをレコーディングするようです。入っていたビラによるとハイドンのトランペット協奏曲などを大友直人指揮のフィルハーモニックアンサンブル管弦楽団という社会人オーケストラと演奏するとのことです。店頭では販売しない限定発売で,予約しないと買えないもののようです。