オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーによる
ウィンター・チェンバー・コンサート

98/02/18金沢市民芸術ホール

1)ドヴィエンヌ/ファゴット四重奏曲ト短調,op.73−3
2)ラヴェル/ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
3)ブラームス/弦楽六重奏曲第2番ト長調,op.36
(アンコール)
4)モーツァルト/ディヴェルティメント,K.334〜メヌエット
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ,氏原乃舞(Vn),石黒靖典,小川京子,眞家利恵(Vla),ルドヴィート・カンタ,十代田光子,フロリアン・リーム(vc),柳浦慎史(fg)

今回報告するのはオーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーによる室内楽の演奏会です。こういう演奏会は季節ごとに行われているのですが,今回は主席客演指揮者のジャン=ピエール・ヴァレーズ氏のヴァイオリンを中心としたプログラムです。常設の団体ではないので曲の編成に応じてオーケストラから臨機応変にメンバーを選べるところが強みです。お陰で日頃聞けない六重奏,七重奏,八重奏といった大きめの室内楽が楽しめます。

前半の2曲はいずれもCDでも聞いたことのない珍しい曲でした。1曲目はドヴィエンヌという名前さえ聞いたこともない人の作品でした。どういう時代の人かも知らなかったのですが,聞いたところモーツァルトそっくりでした。メランコリックな感じが大変気持ち良かったです。ファゴット四重奏曲を聞くのもめったにないことですが,ヴァイオリン以外は低音の楽器ばかりでかなり地味な雰囲気でした。

ヴァイオリンとチェロの二重奏という変わった編成の2曲目も初めて聴く曲でした。ヴァレーズ氏とチェロのカンタ氏が向かい合って演奏する様子は2人の将棋の名人が真剣勝負をしているような趣がありました。曲は大変楽しめました。バチン,ギシギシというような音がしきりに出てきて前衛的な雰囲気もありましたが,形式的には通常のソナタと同様でした。時に東洋風のメロディも出てきたりして,飽きることはありませんでした。各楽章それぞれ印象的だったのですが3楽章の暗い情感がラヴェルの作品には珍しいと思いました。演奏は,軋むような音を多用していたチェロの奏法が特に印象に残りました。めったに聞けない面白い曲を聴けたことは大きな収穫でした。

後半は,ブラームスの弦楽六重奏曲第2番でした。ブラームスの六重奏曲では第1番の2楽章ぐらいしかじっくり聴いたことはないのですが,2番の方もとても良い曲だと思いました。室内楽なのですが,曲がだんだん盛り上がって来るとやや大きめの編成のせいでシンフォニックな響きになってくるのが大きな魅力だと思いました。ブラームスの交響曲は響きが重くて少々苦手なのですが,これくらいの方が私には合っているかもしれません。

演奏もとても素晴らしいと思いました。何といってもヴァレーズ氏のヴァイオリンの音色が良かったです。強い音ではないのですが真っ直ぐ率直に響く音でした。そのせいか重苦しい演奏というよりは,透明感のある清澄な響を聴かせる演奏でした。この辺はOEKの特色でもあると思います。

アンコールはいわゆる「モーツァルトのメヌエット」だったのですがこれもヴァレーズさんのヴァイオリンの特色が良く出ていました。全曲の演奏も聴いてみたいものです。

というわけで,編成の違う3曲をそれぞれ楽しませるプログラミングも良く,大変楽しめる演奏会でした。ヴァレーズ氏はOEKでは指揮をすることの方が多いのですが,本職(?)のヴァイオリニストとしての方が良いかな,という印象を持ちました。来週は,OEKを指揮をする定期演奏会もあるのでその辺を比べてみようかと思っています。