イツァーク・パールマン・ヴァイオリンリサイタル
98/03/03金沢市観光会館

1)モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ第24番ハ長調,K.296
2)ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調,op.78「雨の歌」
3)ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調,op.30−2
アンコール3曲
●演奏
イツァーク・パールマン(Vn),ナヴァ・パールマン(Pf)

今回報告する演奏会は,現在世界でいちばん有名なヴァイオリニストと思われるイツァーク・パールマンのリサイタルです。もちろん金沢に来るのも初めてのことで,演奏会場はいつもより華やかで熱気がありました。ヴァイオリンを習っていそうな子供とその母親といった感じのお客も多かったようです。ただし,満席ではありませんでした。

超有名なヴァイオリスニストということで期待をしていたのですが,私には物足りなく思えました。パールマンといえば甘い美音と反射的に思っていたのですが,その辺の良さがほとんど感じられなかったからです。会場は私の感想とは裏腹にかなり盛り上がっていて,「どういうわけだ」とギャップを感じました。

その理由は,会場の広さにあると思いました。今回の演奏会は金沢市観光会館という2000人以上入るホールで行われたのですが,これはヴァイオリン・リサイタルにはどうみても広すぎました。プログラムの前半は1階の中央の屋根の下辺りで聴いていたのですが(指定席でした),音が頭の上を通り過ぎていくのに愕然としてしまい,後半は2階の後ろの方に移りました(別のメッセージでも書きましたがこのホールは2階の方が音がよく届くようです)。こちらの方が音は直接的に聞こえたのですが,やはりステージが遠すぎました。会場が沸いていたのは,どこかに良い響きの場所があったからなのかもしれませんが,パールマンという人の知名度とアンコール3曲というサービスの良さのせい,という気がしてなりませんでした。というわけで不幸にもほとんど音楽に浸れませんでした。

最初のモーツァルトは特に音が出ていなくて精彩がないように思いました。モーツアルトの曲は本来ピアノが主でヴァイオリンが従という面もあるはずなのですが,今回の演奏はピアノはやけに引っ込んでいました。パールマンの娘のナヴァ・パールマンという若い奏者が伴奏(デュオという感じではありません)だったので仕方のないところです。ピアノの蓋がほとんど閉じた状態だったのですが,普通はもっと開いているような気がします。

2曲目のブラームスはモーツァルトよりは曲の作りが大きいせいか,聞きごたえがありましたが,やはり音色が物足りないと思いました。ヴィヴラートが十分かかり,滑らかに演奏されていたのに,あまり気持ち良く聴けなかったのはやはりホールの響きのせいかなと思ったのですが...理由はよくわかりません。

後半は,当初は,ラヴェルのヴァイオリン・ソナタが演奏される予定だったのですが,どういうわけかベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタに変更になりました。その結果,モーツァルト,ブラームス,ベートーヴェンのソナタ3曲という渋いプログラムになってしまいました。場所を移ったにも関わらず印象はあまり変わらなかったので,パールマン自身,地味な曲想に合わせて渋く演奏したのかもしれません。もっと華麗な演奏を聴けるかと期待していたので(音程も甘いところがあって技巧面でもパーフェクトではなかったと思いました),少々がっかりしました。

にもかかわらず,会場はブラボーの声が盛大にかかり(あまりしつこくブラボーを叫んでいたので,かえってサクラか本職の人のように見えてしまいした。),アンコールが3曲も演奏されました。いずれも知らない曲でしたが,最後の曲がかなり技巧的に華やかな曲で,楽しめました。かなり弾きなれている感じで,この演奏が今回のプログラムの中ではいちばん良いと思いました。また,アンコールを弾くときのユーモアのあふれる仕草というのが,この人の人気の秘密かな,とも感じました。

もっと狭いホールで聴けば恐らく別の印象を持ったと思いますが,1部2000円という暴利を貪るようなパンフレットの値段も含め,ほとんど満足できない演奏会になり非常に残念でした。