オーケストラ・アンサンブル金沢第72回定期公演
98/03/29金沢市観光会館

1)権代敦彦/アンティーフォン(世界初演)
2)サン=サーンス/ピアノ協奏曲第2番ト短調,op.22*
(アンコール)
3)スクリャービン/左手のためのノクターン*
4)ツェルニー/ウィーンワルツによる変奏曲*
5)メンデルスゾーン/交響曲第3番イ短調,op.56「スコットランド」
(アンコール)
6)グルック/歌劇「オルフェオ」〜ミゼット
●演奏
フランソワ=ジョエル・ティオリエ(Pf)*/岩城宏之/OEns金沢

毎年この時期の岩城音楽監督指揮による定期演奏会は若い日本人作曲家の新作+通常の(?)作品というプログラムなのですが,今年もそのとおりでした。協奏曲のソリストが知名度の高い人ではなかったのに加え(非常に素晴らしいソリストでしたが),日曜日の夜ということもあり,客の入りは6〜7割程度でした。ただ,聴衆の反応はとてもよく,気持ちのよい演奏会になりました。

定期演奏会のプレ・トークは恒例になったようです。今回は岩城さんとOEKが作品を委嘱した権代敦彦さんが自作の説明をしました。権代さんは30歳ぐらいの若い方で見た目も普通の(?)若者といった感じでした。国内外で各種作曲賞を受賞し,あとは尾高賞だけ,と岩城さんはおっしゃっていました。権代さんの説明によると「OEKの編成を見て,オケを2分することを思い付き,詩篇を交互に歌う歌い方である交唱=アンティフォンをオケでやってみることにした」という発想の作品です。ステージ上の楽団員の配置は非常に変わっていました。オケは2分され,ティンパニを中心にシンメトリカルに配置していました。しかも指揮者のまわりには大きな空間があり,楽団員はみんなステージの隅っこにいる,という異様な形でした。

というようなわけで,どういうものが出てくるか見当もつかなかったのですが,非常に楽しめました。ステージ中央のティンパニが大活躍でほとんどティンパニ協奏曲といっても良いくらいでした。ピッコロの鋭い音をはじめとして,小オーケストラならではの鋭い響きがいたる所で生きていたのはOEKならではでした。その一方,通常のオケ並みの派手なスケール感もありました。指揮者のまわりの空間がうまく生きていたようです。これくらい新鮮な雰囲気の現代音楽なら楽しめるな,と素人の私は思ったのですが,他のお客さんもそう思ったようで,作曲者は3回ほど呼び出されていました(過去の演奏会では1回で引っ込む人もいたのでかなりウケていたのだと思います。)。

2曲目は,フランソワ=ジョエル・ティオリエという「いかにもフランス」という名前のピアニストによるサン=サーンスの協奏曲でした。NAXOSレーベルからをCDを出している方ですが,非常に実力があると思いました。冒頭からソロが出てくるのですが,音が非常にクリアなのにまず感心しました。この曲は,非常にわかりやすくて,第1楽章など大げさに弾くと非常に陳腐で常套的に響くのですが,ティオリエ氏のように余裕を持って楽々と弾くと,サン=サーンスの曲の職人的な面白さがうまく出てくると思いました。2楽章,3楽章は小粋な感じの曲で,OEKにはよく合っていました。特に3楽章の速いタランテラは鮮やかで,見ているだけで楽しめました。お客さんも大喜びでアンコールが2曲も演奏されました。特に,1曲目のスクリャービンの左手のためのノクターンという左手だけで演奏される小品が印象に残りました。体を大きく傾けて高音のトリルを左手でだけ弾くのは,視覚的にも面白いと思いました。

後半は,メンデルスゾーンのスコットランド交響曲でした。この曲は,抒情的な印象がありますが,今回の演奏は,小編成にもかかわらず堂々とした交響曲として響いていました。各楽器は,岩城さんの完全なコントロールの下にあり,いつにもまして良く音が出ていました。第1楽章,第3楽章の(休みなしに連続して演奏されたのですが)引き締まった弦の響き,第2楽章の非常にキビキビとしたリズムなど文句のつけようがありませんでした(コンサートマスターがマイケル・ダウスさんだったせいもあると思います)。第4楽章の最後で低弦のユニゾンでおおらかな旋律の出てくる「聴き所」ではこれまでの堅い響きとは一転して柔らかい響きが出てきて見事に聴かせてくれました。抒情的な雰囲気というのはあまり感じられませんでしたが,プログラムを締めるにはふさわしい演奏でした。
というわけで,岩城−OEKの組み合わせは,10年目を迎えてますます好調になってきたようです。 なお,今回と全く同じプログラムの演奏会が3月31日に東京のサントリーホールでも行われます。