第3回石川県新人登竜門コンサート
98/04/12金沢市観光会館

1)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
2)モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」〜「さあ,ひざをついて」
3)ドニゼッティ/歌劇「ランメルモールのルチア」〜「あたりは沈黙に閉ざされて」
4)ビゼー/歌劇「カルメン」〜「恋は野の鳥」
5)サン=サーンス/歌劇「サムソンとデリラ」〜「恋よ!弱い私に力を貸して」
6)イベール/室内小協奏曲
7)ロッシーニ/歌劇「アルジェのイタリア女」〜序曲
8)ロッシーニ/歌劇「アルジェのイタリア女」〜「むごい運命よ!」
9)ロッシーニ/歌劇「アルジェのイタリア女」〜「祖国のことを考えなさい」
10)ショスタコーウ゛ィチ/チェロ協奏曲第1番op.107
●演奏
広瀬美和(S*2,3);浪川佳代(Ms*4,5);筒井裕朗(Asax*6);鳥木弥生(Ms*8,9);大澤明(Vc*10)
岩城宏之/Oens金沢

今回報告する演奏会は,石川県出身・在住または石川県で研鑽中・研鑽経験のある新人音楽家を対象としたオーディションの合格者による「石川県新人登竜門コンサート」という演奏会です。第3回目の今回は,声楽,管楽器,打楽器部門の合格者が4人登場しました。岩城さんに「合格者の親戚縁者しかいないのでは...」と言わせた程お客の入りは悪かったのですが(そこまで悪くはなくて,5割弱ぐらい),反応はそんなに悪くはありませんでした。

私自身は,新人の演奏を聴くというよりはショスタコーヴィチとイベールの聴いたことのない曲を目当てに出かけました。いずれにしても,今回の演奏会は天気の良い春の日曜の午後ということで,皆さん,花見や行楽に出かけていたのではないかと思います。

最初に「フィガロの結婚」の序曲が演奏されました。弾きなれ,聞きなれている曲だったのですが,無理な力が入っていなくて,細かい音の動きがきれいに聞こえ,とても新鮮に響きました。

最初に登場したのは広瀬美和さんというソプラノでした。軽く,明るい声質で,初々しかったのですが,新鮮というよりは,”生”という感じで,聴いている方が少々恥ずかしくなりました。きちんと歌っていたのですが,こなれていない気がしました。声もオーケストラに消されてしまうところがありました。

2番目に登場したのは浪川佳代さんというメゾ・ソプラノでした。最初の人よりは(声域のせいか),落ち着いて聞こえましたが,ビゼーのカルメンという聞きなれた曲のせいか,単調な印象を受けました。ヴィブラートも少々多いような印象を受けました。

3番目は,筒井裕朗さんのアルト・サクソフォンでした。まず,曲がよくまとまっていると思いました。オケの管が1本ずつという珍しい編成の曲ですが,OEKの編成にはあっていました。サクソフォンの演奏は須川展也さんの演奏を聞いた時も思ったのですが,アラが出にくいと思いました。今回の筒井さんの演奏も見事で,文句のつけようがありま
せんでした。サクソフォン自身,非常に完成された楽器といえるのかもしれません。

後半は,まずロッシーニの「アルジェのイタリア女」序曲が演奏されました。この曲も最初のフィガロの序曲と同様の印象を受けました。

次に登場したのは,鳥木弥生さんというメゾ・ソプラノでした。岩城さんから「やはり歌手は体格の良い方が...」という紹介があったので,どういう人が出てくるのかと思ったのですが,少々大柄かなというぐらいの方でした。曲も立派な形になっていました。低音が豊かで,声量もあり,今回の歌手の中ではいちばん聴き映えがしました。やはり,こういう形での聞き比べになると,声量のある人が有利ですね。カーテンコールも3回あり,他の人よりは拍手の量も多かったようです。

最後は,「受賞者の演奏だけでは時間が余るので,OEKのメンバーの中からソリストとして立候補した人の演奏を入れることにした」ということでOEKのチェロ(主席ではない)の大澤明さんの独奏によるショスタコーヴィチの協奏曲が演奏されました。時間が余ったからという一種の埋め草としては大変な難曲でした。

曲の冒頭の動機が(最終楽章でも)しつこく繰り返されたので演奏会が終わった時はこの動機が頭にこびりついてしまいました。それほど,「いかにもショスタコーヴィチ」という感じの動機でした。チェロの大澤さんは譜面はあったけれどもほとんど目をつぶって弾いていました(目が細い方だったのでよくわかりませんでしたが)。そのせいもあって,気合が入っているな,曲と格闘しているな,というのがひしひしと伝わってきました。こういう演奏を聴くのは良いものです。音程とか技巧については問題があったような気がしましたが(曲をよく知らないのでなんとも言えないのですが),伝わってくる迫力は立派なものがありました。むしろ「難曲らしさ」を伝えるという面では,ふさわしかったかもしれません。第1楽章の他では旋律というよりはブツブツと独りでしゃべっているような第3楽章=カデンツァが印象に残りました。

その他,もう一人のソロともいうべきホルン(エキストラ?1人でした)も格好良く決まっていました。曲の節目節目でビシッと決まるティンパニの強打も見事でした。大澤さんを盛り立てようという団員の応援する気持ちが好演に繋がったのかもしれません。最後に岩城さんから大澤さんに洋酒のボトルがプレゼントされ,大澤さんも目を細めていました。

この企画は,コンクールではなく,OEKと共演できるという栄誉がもらえるだけの企画なのですが,この中の1人でもこの演奏会を機会に伸びていってもらいたいものです。なお,今月,東京フィルの演奏会に登場して,シマノフスキのヴァイオリン協奏曲を演奏する吉本さんというヴァイオリニストは昨年のこの演奏会に登場した人です。非常にしっかりと弾いていた記憶があります。