オーケストラ・アンサンブル金沢特別公演
98/04/24金沢市観光会館

1)モーツァルト/交響曲第30番ニ長調,K.202
2)モーツァルト/交響曲第38番ニ長調,K.504「プラハ」
3)チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.35
(アンコール)
4)チャイコフスキー/メロディ
5)シューベルト/ロザムンデ〜間奏曲
●演奏
戸田弥生(Vn*3,4)/小泉和裕/OEns金沢"

今回報告するOEKの演奏会は,小泉和裕指揮,ヴァイオリン戸田弥生による,前半モーツァルト,後半チャイコフスキーという後半の協奏曲がメインになる変則的なプログラムでした。 OEKの定期会員に招待券が配られた演奏会だったので会場はほぼ満席でした。

演奏会の前に小泉氏によるプレトークがあったのですが,曲目の解説は全くなく,ただの雑談でした(ご自分でも「こういうのは苦手だ」とおっしゃていたのですが)。やはり,こういうのは演奏と関係ない別の人がやるべきものですね。

前半のモーツァルトは,正直なところ面白くない演奏でした。整ってはいるが,雰囲気が軽く,聞いた気がしませんでした。モーツァルトの曲では長調の曲の間に時々出てくる「陰り」を聞くのが好きなのですが,そういうのが感じられませんでした。OEKの音色のせいもあるかもしれませんが,色合いに変化をつけない指揮にも原因があると思いました。

1曲目は第30番という若い時の作品で,曲がつまらないせい,とも思ったのですが,プラハ交響曲の方もそれほど印象は変りませんでした。確かに,ティンパニ,クラリネット,フルートが加わり,「陰のある大人の雰囲気」に響きは変わったのですが,どこか物足りませんでした。ティンパニの音も冴えない感じでした。1楽章,3楽章とも繰り返しがなく,インテンポでさっと終わったのも物足りませんでした。これらの楽章の最後の方のしなやかに疾走する感じはとても良かったのですが,全般に面白味のない演奏に思えました。

というわけで,後半は戸田さんのヴァイオリンのみに注目して聴くことにしました。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は意外なことにホルンを2本加えればOEKの編成でも演奏できてしまいます。トゥッテイの音にはかえってキレが加わり全然違和感はありませんでした。

戸田さんの演奏は以前,モーツァルトの協奏曲を聞いたことがあるのですが,その時とは別人のようでした。非常に耽美的な演奏で,遅いところを極端に遅く演奏していました。全体の演奏時間も40分近くありました。前半のさっぱりしたモーツァルトとは正反対の演奏で,小泉さんもわざと対比をつけたのかな,と穿った見方をしたくなりました。テンポの取り方や揺らし方が堂に入っており,すっかり納得してしまいました。音が荒っぽくなるところもあったのですが,その辺を気にしていないあたりが,逆に迫力につながっており,演奏のスケールが大きくなったように思いました。とにかく堂々として納得のできる演奏でした。こういう演奏は,CDで聴くよりは,生で聴く方が良いものですね。

小泉さんは,ほとんど止まってしまいそうな自由なテンポで演奏する戸田さんにピタリとつけており,さすがだと思いました。その辺の合わせ具合の方が前半のモーツァルトより面白く感じました。アンコールの1曲目のヴァイオリンの曲は「当然」と思ったのですが,2曲目のアンコールはなくてもよい感じでした。