オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーによる
スプリング・チェンバー・コンサート

98/05/20 金沢市民芸術ホール

1)ミヨー/オーボエ,クラリネット,ファゴットのための組曲
2)ニールセン/ユーモレスク-バガテル,op.11
3)コープランド/静かな都会
4)ストラウ゛ィンスキー/バレエ組曲「兵士の物語」
(アンコール)
5)マンシーニ(編曲者不明)/ムーン・リバー
▼岡本えり子(Fl)2,水谷元(Ob)1,3,遠藤文江2,4,三瓶佳紀1,2(Cl)
柳浦慎史(Fg)1,2,4,谷津謙一3,藤井幹人4(Tp),西岡基(Tb)
坂本久仁雄(Vn)4,今野淳(Cb)4,黒崎菜保子(Pf)3,渡辺昭夫(Perc)4
深田みどり(語り)4

今回報告する演奏会は,オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーが年4回行っている室内楽の演奏会です。室内楽とはいえ「兵士の物語」をメインに演奏するだけあって,室内楽にしては大編成でかなり変則的なメンバーでした。その他の曲もマイナーな曲で,しかも主席奏者が全く登場しなかったので,会場は半分ぐらい空席でした。私は,「兵士の物語」を一度生で聴きたいと思い,この曲を目当てにそれほど期待せずに出かけたのですが,予想以上に楽しめました。しかもとても気持ちの良い演奏会でした。

登場したのは管楽器を中心としたOEKの若いメンバーばかりでした(そうでなくても若い団員が多いのですが)。聞いたことない曲ばかりだったのですが,どれも裏にドラマがあるような感じの曲で,選曲のセンスが良い上に,まとまりもあると思いました。ただ,残念だったのは...お客さんの拍手が少なかったことでした。

最初の曲は,ミヨーの木管3重奏(Ob,Cl,Fg)の組曲でした。1分ほどの気のきいた小品を8つ集めた曲で,クリアな響きが楽しめました。オーボエの音が中心で,甲高い音が少々耳につきましたが気楽に聴けました。

2曲目は,ニールセンの小品6曲からなる木管四重奏(Fl,Cl*2,Fg)の組曲で,構成としては1曲目とよく似ていました。ただ,各曲には標題がついており,さらに親しみやすい感じでした。どこか子供向けの描写音楽といった雰囲気もあり,もっと聴かれてもよい作品と思いました。クラリネットをはじめとして,音に精彩があり,速い音の動きの時に音がぴったりそろったりすると実に気持ちの良いものだと思いました。

3曲目は,トランペットとイングリッシュ・ホルンがソロというタイトルからは予想のつかないような編成でした(オリジナルはピアノ伴奏ではないようですが)。タイトルどおり都会の哀愁を感じさせる,格好の良い曲でした。ガーシュインのラプソディ・イン・ブルーの中間部と雰囲気が似ていると思いました。遠くからエコーが聞こえてくるようなイングリッシュ・ホルンの音も,トランペットの音と不思議とよく溶け合っていました。もとは弦楽合奏が伴奏のようですが,ポロンとシンプルに加わるピアノの伴奏もなかなかよいものです。いずれにしても1人でセンチメンタルな気分に浸るには良い曲ですっかり気に入りました。

後半は,メインの兵士の物語だったのですが,休憩時間中に変な編成の舞台設営をしているのを見ていると,「現代音楽だ」という気分が盛り上がってきました(他の客はそうでもない感じでしたが...)。今回の演奏は,プログラムには組曲と書いてあったのですが,語りも加わっていたのでほとんど全曲という印象を受けました。語りは地元の北陸朝日放送の若い女性アナウンサーで,かなり堅くてまじめな感じでした。生で(しかも語り付きで)聴くことなどめったにない曲なので作品を歪めないという点では良かったのですが,アクの強い俳優の語りで聴いてみたい気もしました。また,今回は,曲間のみに語りが入っていましたが,どうせなら音楽の上に語りが乗るような感じの方が流れがよくなると思いました(そうするには,語りにも音楽的な素養がもっと必要になるのかもしれませんが)。

曲は,変拍子と独特の薄くて乾いた響きに溢れ,強く印象に残りました。曲の最後の打楽器の乱れ打ちみたいなのや,曲のいたるところで入るコルネットなどの合いの手も面白いと思いました。木管の響きには春の祭典などを思い出させるところもあって,やはりストラヴィンスキーだと感じました。

全般にテンポが重い感じでメリハリがもっときいていると良いと思いましたが,やはり,指揮者なしでこういう曲を演奏するとなると,きちんと演奏するだけで大変なのかもしれません(この曲は10人以下で演奏する曲ですがCDでは必ず指揮者がいますね)。今度演奏することがあれば,岩城さんの指揮あたりで聴いてみたいものです。 語りがついていたことを含め,この複雑そうな曲をきちんとわかりやすく演奏してくれただけでも,この演奏会に来た甲斐がありました。最後には悪魔が勝ってしまうという,教訓めいたお話もシニカルで現代的だと思いました。

アンコール曲は,編曲者は不明ですが,この演奏会に登場した人全員による「ムーン・リバー」でした。メインの曲が曲だけに異様な編成になってしまったのですが,サロン・オーケストラという感じで,なかなかいい雰囲気がありました(ヴァイオリン1,コントラバス1というのが特に良いですね)。ソロを各楽器が順番にとる編曲も良かったし,こういう路線は結構受けるのではないかと思いました。この編成でジャズっぽい曲などをやっても面白そうです。

この演奏会では,チューニングは舞台裏で済まし,ステージでは全くチューニングをしていなかったのですが,そういったことを含め,非常に気持ちのよい演奏会でした。プログラミングも意欲的で好感を持ちました。惜しむらくは...PRも下手だったのかもしれませんが...もう少し多くの人に聴いてもらいたかったですね。