ルドヴィート・カンタ・チェロ・リサイタル
98/6/12金沢市民芸術ホール

バッハ/無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調,BWV.1011
ブラームス/チェロ・ソナタ第2番ヘ長調,op.99
ドビュッシー/チェロ・ソナタ
パーレニーチェク/コラール変奏曲
(アンコール)
ドビュッシー/月の光
カサド/インテルメッツォ
●演奏
ルドウ゛ィート・カンタ(Vc),松井晃子(Pf)

今回報告する演奏会は,オーケストラ・アンサンブル金沢の主席チェロ奏者のルドヴィート・カンタさんのチェロ・リサイタルです。カンタさんは,オーケストラの一員としてだけでなく,ソリストとしての実力もある方ですが,今回の演奏を聞いてますますその思いを強くしました。

今回の演奏会は,「カンタさんを囲む会」という一種のファン・クラブ主催の演奏会だったのですが,お客の入りも良く,カンタさんの人気を示していました。カンタさんの地元町内会の花束がステージ上に飾ってあったのですが,カンタさん自身も応援してあげたくなるような良い雰囲気を持った方です。パンフレットには,カンタさんの顔をシンプルな線でデザイン化した絵が載っているのですが,イラスト化しやすい顔というのも人気の秘密だと思います。

プログラムは,時代順の配列でした。ビラを見たときはブラームスが最後かと思ったのですが,聞いたことのないパーレニーチェクというチェコの作曲家の作品がメインになっていました。スロヴァキア出身のカンタさんのこだわりが表れていたようです。

最初のバッハは生で聴くのは初めてでした。第5番はハ短調の非常に暗い作品でした。ステージの照明もスポット・ライトだけでした。そういう雰囲気に加え全曲が同じ調性だったので30分ほど別世界に入ってしまったように感じました。曲調のせいか,音がフラット気味に聞こえたのが少々気になりました。演奏会で聴くよりは,一人で部屋の中で聴く方が良い曲のような気もしましたが,別世界に浸るならやはり演奏会で聴く方がよいのかもしれません。最後のジーグなどで気分が変わりそうで変われないあたりに魅力を感じました。いずれにしても,現代の世相にふさわしく(?),あまりはしゃぎたくない気分の時などに聴くのには良い曲だと思いました。

2曲目のブラームスは,ピアノが加わったせいもあり,一気にダイナミックで華やかになりました。冒頭部分など,音程が上ずって聞こえたのですが,それがかえって情熱的に響きました。2楽章は,心臓の音のようなピチカートで始まるのですが,こういったところにも秘めた情熱を感じました。ピチカートの音も実に良い音で「ピチカートは生に限る」と思いました。カンタさんの魅力は,クリーミーでかつ情熱と力感のあるテナー歌手のような音色にあると思うのですが,その良さがこの曲ではよく出ていました。残念だったのは,ピアノの音が軽くて深みがなかったことでした。ブラームスの曲なので特にそのことを感じました。

前半はかなり重かったので,後半は時間的にもやや軽いプログラムになりました。

ドビュッシーの曲も初めて聴く曲でした。短い曲で聞きやすい曲でしたが,所々個性的な雰囲気を持っていました。特殊な奏法をあれこれ使って「死への恐怖」(プログラムの解説による)を表しているような2楽章が特に印象に残りました。演奏に関しては,もう少し不健康な雰囲気がある方がよいかなと思いました。

最後の曲はパーレニーチェクというチェコの作曲家が1942年に作った作品でした。スケールが大きく,技巧的にも華やかでなかなか楽しめる作品でした。鐘の音がピアノ伴奏から聞こえて来るので,ラ・カンパネラといったところなのですが,民族音楽的な雰囲気もありました。演奏もこれがメインということで,大変充実していました。この曲を紹介することが今回の演奏会の目的だったのかもしれません。

カンタさんはAEOLUSというレーベルからソロのCDを1枚出しているのですが(NAXOSからもカペラ・イストロポリターナのメンバーとしてかなりCDを出しているようですが),今度は,こういうマイナーだけれども楽しめる曲を収録したCDを作ってもらいたいと思います。

アンコールは2曲ありました。1曲目はドビュッシーの月の光をチェロで演奏したものでした。微妙な音程をピアノとあわせるのが難しそうで,あまりチェロには向かないような気がしました。2曲目のスペイン風の小品は初めて聴く曲でしたが,なかなか良い曲だと思
いました。

というわけで,チェロの魅力とカンタさんの魅力を十分味わうことのできた気持ちの良い演奏会でした。また,カンタさんの演奏会があれば出かけてみたいと思います。