ミルバドラマティック・リサイタル'98:
ミルバ タンゴ<ピアソラ>

98/6/18金沢市文化ホール

ピアソラ/天使の死
ピアソラ/ブエノスアイレスで私は死のう*
ピアソラ/タンゲディアビネッリ/メトロポリス
ビレッリ/女・ブエノスアイレス*
ピアソラ/遥かなる大地*
ビネッリ/プレリュードとカンドンベ
ピアソラ/孤独の歳月*
ピアソラ/ロコへのバラード*
ピアソラ/ムムキ
ピアソラ/ミケランジェロ70
ピアソラ/行こうニーナ*
ピアソラ/忘却*
ビネッリ/フーガと復活
ピアソラ/チェ・タンゴ・チェ*
ピアソラ/アディオス・ノニーノ
ビネッリ/去って行った人々に(亡き人達に)
ピアソラ/3001年へのプレリュード
ピアソラ/フィナーレ"プレヒトとブレルの間で"
(アンコール)
ビネッリ/メトロポリス?
ピアソラ?/?
ビネッリ/?*
ビネッリ/?*
ピアソラ/ロコへのバラード*
●演奏
ミルバ(Vo*)/ダニエル・ビネッリ・アルゼンチン五重奏団/フィリッポ・クリベッリ(演出)

今回報告する演奏会は,このFCLAにふさわしくはないのですが,関心のある方も多いと思いますので,紹介させていただきます。

実は,外国の女性歌手のコンサートに行くのは,クラシックも含めて初めての経験です。が,ミルバについては,CDやテレビの映像で聴いたり,見たりしたことはあります。そこでまず思ったのは,ミルバの声はCDと全く同じだ,ということです。また,10年前のピアソラとの来日公演の映像と比べても,赤い髪の毛をはじめとして雰囲気は,ほとんど同じでした。マイクを使っているとはいえ,なかなかすごいことだと思いました。

というわけで,例のピアソラと共演したライブCD同様,素晴らしい内容のコンサートになりました。ただ,バックのビネッリ五重奏団の印象は少々薄く(というかミルバの声がでかすぎる),ミルバ−ピアソラのライブよりは,ミルバにかかる比重が遥かに大きく感じられました。この辺は,ビネッリという人とピアソラの格の違いなのでしょう。とはいえ,ミルバの素晴らしさを味わえただけでも大満足でした。お客さんも大喜びでした。

もしかしたら空席がかなり出るのでは,と思ったのですが,8割ぐらいは入っていました。しかも,かなり熱心な聴衆が多い感じでピアソラ人気の反映かな,という気がしました。ミルバの声はとにかく強靭でした。裏声はほとんどなく地声に迫力がありました。情感を自由自在にこめていて非常にドラマティックに感じられましたが,ラテン系の言葉の発声法のせいか,非常に口跡が良くて,さわやかな気分になりました。カンターーービレという感じの息の長さは,まさにカンツォーーネという感じでした。根本は明るくて,歌っているのも気持ちよさそうでしたが,聴いている方も最高の気分でした。例えば,日本の演歌歌手も非常に情感はこもっているのですが,その分,非常にもたれてしまいます(プロの演歌を生で聴いたことがないので本当のところはわかりませんが)。演歌歌手と似ていそうで対照的だと感じました。

前述のとおり,このコンサートは10年前ピアソラの最後の来日の時と大体同じでした(演出も同じ?)。ミルバの歌った曲もほとんど同じで, セットも衣装(黒→赤→黒。途中で靴を脱いだりする)も同じようでした。違いは,バックがビネッリというバンドネオンを中心とした五重奏団だということで(編成は全く同じですが),ビネッリ氏の自作の器楽のみの作品も数曲含まれていました。

コンサートはなんと休憩なしで行われました。バンドのみの曲もありましたが,ミルバのエネルギーは大変なものだと思いました。器楽のみの曲も良かったのですが,ミルバの歌が入ると一気に精彩が加わるような感じでした。

特に印象に残った曲は「ロコへのバラード」「孤独の歳月」「遥かなる大地」といった曲で,いずれも泣きが入るようなセンチメンタルな部分がなんともいえず良いと思いました。「チェ・タンゴ・チェ」という明るい曲は,いかにもライブ向けという曲で,CDで聴くよりもずっと楽しめました。というわけで,結局ピアソラの曲ばかり印象に残りました。

実際,ビネッリの曲とピアソラの曲はかなり感触が違いました。ピアソラの曲は熱く,ビネッリの曲はコンテンポラリーな感じはしたが,すべてが薄いような気がしました。ミルバにふさわしいのはピアソラのような濃い音楽だと思いました。プログラムに変化をつ
けるのが良いのか,ピアソラの曲だけでまとめた方が良かったのかはわかりませんが,個人的にはピアソラの世界だけに浸りたい気はしました。

マイク・スピーカー付きの演奏会にはめったに行ったことはないのですが,やはり,スピーカーから出る音というのはあまり好きではありません。特に,ソロ・ヴァイオリンの音が楽器とは違う場所のスピーカーから聞こえるというのは,かなり気持ち悪く感じました。ミルバの声については地声も大きいせいか,ステージ全面から声が押し寄せてくる感じで,あまり気になりませんでした。あとコントラバスの胴体を頻繁に叩いていましたが,楽器に悪くないのかな,と変なことが気になりました。

パンフレットは1500円もしましたが,曲目リストが配布されなかったので買ってしまいました。奇麗な写真が多く,読む部分もあったので,まあ許せる内容でした。

アンコールは5曲(2曲はバンドのみ)もありました。イタリア語で説明していたので良くわからなかったのですが(ミルバの日本語の発音はとてもきれいでしたが...残念ながら語彙は少ないようです),ビネッリ氏がミルバのために作った曲を2曲歌ったようでし
た。やはり,ピアソラの曲の方がいいな,と思いながら聴いていたら,最後に「ロコへのバラード」を歌ってくれました。この曲は,熱いものが心に残ります。最後の最後の部分でマイクを置き,肉声だけで叫んだのが印象的でした。

ピアソラの曲を生で聴くのは,初めてのようなものだったのですが私のような初心者には純粋な器楽だけを聴くよりは良かったと思いました(ピアソラの曲はサビの部分などよく似ていて歌詞がないと区別がつかないところがあるので)。いずれにしても,ミルバの
濃い歌い方が頭にしみついてしまい,当分,普通の?ポピュラー音楽では物足りなくなりそうです。