オーケストラ・アンサンブル金沢第74回定期公演
98/6/23 金沢市観光会館

1)メンデルスゾーン/序曲「フィンガルの洞窟」op.26
2)バーンスタイン/セレナード(プラトンの「饗宴」による)
3)メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調「イタリア],op.90
(アンコール曲)
4)武満徹/夢千代日記のテーマ
●演奏 岩城宏之/OEns金沢/マイケル・ダウス(Vn*2)

今回報告する演奏会はOEKの定期演奏会です。指揮は音楽監督の岩城宏之氏,ソリストは特別コンサート・マスターのマイケル・ダウス氏ということで,「すべて自前で調達」という感じでした。プログラムもメンデルスゾーンのイタリアがメインということでこじんまりした感じの演奏会になりました。

演奏会に先立って行われた恒例のプレトークはコンポーザー・イン・レジデンスに就任した藤家渓子さんでした。ステージにお客さんの代表に上がってもらって,話をすすめるという形で行われたのですが,話自体はバーンスタインの作品の説明に集中したこともあって,少々わかりにくかったです。藤家さんの前回の作品「思いだすひとびとのしぐさを」が高く評価されての座付き作曲家起用だと思いますが,次作も期待したいところです。ちなみに,この曲はタイトルも個性的ですが,なかなか派手な響きで楽しめる作品でした。

1曲目は非常に滑らかに始まった「フィンガルの洞窟」でした。クラリネットをはじめとして聴かせどころの旋律も美しく響いて気持ち良かったのですが,終わりの辺りの金管の響きが乱暴な感じに聞こえたのが残念でした。

2曲目はバーンスタインの,「セレナード」という名前のついた(実質上)ヴァイオリン協奏曲でした。この曲は,五嶋みどりがバーンスタインと共演した時に演奏中に2度も弦を切りながらも最後まで弾いたという有名なエピソードが起った時の曲です。どこで切ったのかはわかりませんが,そんなに切れそうな高音はなかったような気がしました。曲は,5楽章からなっており,弦楽器と打楽器とハープだけで演奏されました。いきなりフーガのような感じで始まったので,バルトークの弦楽器,打楽器,チェレスタのための音楽のような印象も受けました(ステージ上にはチェレスタもあったのですが...これはアンコールまで使われませんでした。)。曲は,シンメトリカルで古典的な構成で,かなり真面目な音楽でした。名曲かどうかはわかりませんが,バーンスタインにしては晦渋な印象を受け,それほど楽しめませんでした。最後の楽章にやっとジャズっぽいフレーズが出てきて,バーンスタインらしいと思ったのですが,演奏の方も少々腰が重いような印象を受けました。ダウスさんのソロはオーケストラの中の一部という感じで,派手ではありませんでしたが,これはこれで良いと思いました。セレナードというタイトルからすると,もう少し軽い曲かと予想していたのですが,意外に大曲で,「心の準備ができていなかった」というようなところもあります。

後半は,メンデルスゾーンのイタリア1曲でした。第1楽章の冒頭で揃わない部分があり,一瞬ドキリとしましたが,それ以外は岩城さんらしい率直な曲の作りが,この「気持ちの良い名曲」には相応しかったと思いました。この曲を聞くと,どういうわけか,自分が中学生の時にこの曲を初めて聞いた頃のことを思い出し,ノスタルジックな気分になってしまうのですが,そういう味わいはあまりありませんでした(3楽章のホルンが少々危ない感じで,気になったせいかもしれませんが)。その辺が残念ではありました。

というわけで全般に満足のいかないところのある演奏会になりましたが,最後に意外な(私は途中で気付いたのですが)プレゼントがありました。この日は,ステージ上にずっと使われないままのチェレスタが最初から最後まで置いてあったのですが,アンコールで初めて使われました。後半はイタリア1曲だったので(しかも1楽章の繰り返しもありませんでした),何かアンコールはあると思っていたのですが,武満さんの作曲したNHKドラマ「夢千代日記」のテーマが演奏されました。この日,この曲を含む後期の武満徹の”ききやすい”作品を中心としたCDがJVCから発売になったのですが,そのプロモーションも兼ねている感じでした。日本近代音楽館というところで発見した直筆楽譜を元に演奏したということで,貴重なものなのかもしれません。曲は,「そういえば聞いたことがある」といういかにもNHKドラマという感じの作品でした。イタリア交響曲には少々釣り合わないところはありますが,アンコールには良い曲かもしれません(チェレスタが必要というのは困りますが...ちなみにこの日は木村かをりさんがチェレスタを弾いていました。)