第26回全国アマチュアオーケストラフェスティバル金沢
98/08/02金沢市観光会館

1)千鳥の曲
2)チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
3)チャイコフスキー/交響曲第4番ヘ短調,op.36
4)マーラー/交響曲第1番ニ長調
●演奏
1)大村松雄/石川PSO,金沢邦楽Ens,石川県合唱協会
2)パヴェル・コーガン/JAO特別編成O(ゲストコンサートマスター:三浦章広)
3)岩城宏之/JAO特別編成O(ゲストコンサートマスター:パヴェル・ボガチュ)

今回報告するのは全国のアマチュア・オーケストラの選抜メンバーによるコンサートです。日頃は室内オーケストラしか聴けないので,マーラーの「巨人」を目当てに聴きに行きました。どういうわけか金沢でマーラーが演奏される機会は少なく,過去に生では一度(しかも金沢大学のオーケストラ。その時も「巨人」)しか聴いたことはありません。

アマチュアオーケストラフェスティバルというのは,年に一度の全国持ち回りの行事らしいのですが,チャイコフスキーの4番+マーラーの巨人+αという3時間に及ぶプログラムというのはさすがに重かったです。全国のアマチュアオーケストラの中の400人ほどの出場希望者を全員登場させようとすると必然的に大編成の曲が並ぶことになるのですが,いっそ2日に分ける方が良いような気もしました。

演奏は,選抜されたメンバーだけあって充実していたと思いました。私のようなものにとっては,これらの曲を一定の水準で聴けたというだけで満足でした。

最初に,歓迎の音楽ということで地元のアマチュアオーケストラと琴の合奏と合唱による「千鳥の曲」という曲が演奏されました。

前半は有名なヴァイオリニストのレオニード・コーガンの息子(エミール・ギレリスの甥にもあたるそうです)のパヴェル・コーガン指揮によるチャイコフスキーでした。ロシア+アマチュア=白熱という図式どおりの演奏でした。4楽章のクライマックスをはじめ聴きどころになると,テンポが上がり,クレッシェンドし,弦がギシギシと鳴るというのは非常に興奮しましたが,常套的で先が読めるような気もしました。クレッシェンドの仕方も,一度少しデクレッシェンドした後クレッシェンドをするというパターンばかりで常套的でしたが,生で聴く分には十分楽しめました。ただ,テンポに安定感がなかったり,力ずくの雰囲気(両手を上げて聴衆に応えるロシア風のステージ・マナーのせいかもしれませんが)があって,少々下品な感じはしました。

オーケストラの方は指揮者のテンポ設定が「速くところはより速く」という感じだったので合わせるのが大変そうでしたが,非常に良く演奏していたと思いました。冒頭のホルンが揃わなかったり3楽章でアンサンブルが乱れそうになったりしましたが(これは指揮者のテンポ設定のせいだと思いますが),普通の学生オーケストラとは比べものにならないほど弦のピッチなどはしっかりしていたと思いました。ゲスト・コンサートマスターは,三浦さんというNHK交響楽団の方だったのですが,動きが大変大きく2人目の指揮者のような役割をしていたような感じでした。

後半は,岩城さんの指揮によるマーラーの巨人でした。こちらもしっかりした演奏で,この曲の持つ爽やかさを歪めずに伝えていました。 1楽章は冒頭の弱音の弦の音からしてきれいに響いていたので期待が持てると思いました。その後の木管などの音の受け渡しやバランスはこなれていない感じはしましたが,この辺はプロでも難しいのではないかと思いました。1楽章後半の音響の爆発は,オーケストラを聴く喜びに浸れました。特にホルンの強奏が印象に残りました。前半のコーガン氏は力ずくという感じでしたが,岩城さんの方は,手綱を開放するという感じがあり,岩城さんの方が指揮者の実力としては上だと
思いました。

2楽章は,「あまり速くならぬように」という指示どおり,テンポがかなり遅めで,のんびりした田舎の舞曲の雰囲気がよく出ていました。踊れると思われるようなテンポというのはあまり聞いたことがなかったので面白く聞けました。

3楽章は,逆に「緩慢になることなく...」という指示どおり,やや速めの葬送行進曲でした。コントラバスは音程が安定しない感じでしたが,このソロを初めとして他の楽器のソロも素朴な雰囲気をよく出していました。

4楽章は,冒頭の音の爆発にまず感激しました。シンバルの女性が大上段から思い切り叩いていたのが印象的でした。中間の弦楽器による緩やかな部分などはもっとゴージャスな感じに浸りたいような気はしましたが,この辺は一流オーケストラでないと無理かもしれません。クライマックスは,楽譜の指示どおり(?)ホルンは立ち上がって演奏していました。見た目ほどホルンの音が強調されていなかったので視覚的な効果だけなのかもしれません。それよりもいちばん最後の大太鼓のトレモロが強烈でした。やはり生で聞くこうなるのか,と非常に感動しました。

全般にテンポの設定がうまいと思いました。安定感があり,スケールの大きさが出ていたと思いました。演奏後の楽団員の足踏みの感じからすると岩城さんに対する信頼感は相当強いと思いました。岩城さんも満足そうな雰囲気だったので,演奏者の方も満足できる内容だったのだと思います。いずれにしても,この巨人という曲はアマチュアオーケストラが演奏するのに(かなり難しいとは思いますが)ふさわしい曲だと思いました。ゴージャス感だけではない爽快感を持っている曲なので,アマチュアの演奏の持つ一生懸命な感じはプロには出せない強みになると思いました。

というわけで,満足できる演奏会だったのですが,高円宮殿下を会場にお招きしていたせいか,演奏会の進め方が,お役所の仕事そのものだったのが残念でした。開会のあいさつ,全員ご起立下さい,殿下入場,まではまあ良かったのですが,なんと「巨人」が終わった後に,閉会のあいさつがあったのには驚きました。主催者側のセンスのなさに呆れてしまいました。