オーケストラ・アンサンブル金沢第75回定期公演
98/9/4金沢市観光会館

1)池辺晋一郎/悲しみの森(新曲委嘱作品 世界初演)
2)シューマン/ピアノ協奏曲イ短調 op.54*
3)ベートーウ゛ェン/交響曲 第7番イ長調 op.92
(アンコール)
4)ベートーウ゛ェン/交響曲第8番ヘ長調,op.93〜第2楽章
●演奏
小川典子(Pf*2)/岩城宏之/OEns金沢

今回紹介する演奏会は,6月以来久しぶりのオーケストラ・アンサンブル金沢の定期演奏会です。コンポーザー・イン・レジデンスの池辺晋一郎さんの新作とオーソドックスな曲を組み合わせた岩城さんらしいプログラミングの演奏会でした。

今回のプレトークは,池辺さんと岩城さんによる雑談風曲目紹介でした。池辺さんはN響アワーでおなじみですが(相変わらず駄洒落を言っていたようですが遠くてよくわかりませんでした),髪型というか髪の量?が少々違っているようでした。このところOEKのコンポーザー・イン・レジデンスは武満さん,黛さんと在任中に亡くなるという縁起でもないジンクスがあったので,池辺さんも変なプレッシャーを感じていたようですが,無事に責任を全うされたことになります。

最初の曲はこの池辺さんの新作の「悲しみの森」という曲の世界初演でした。環境破壊に苦しむ森林をイメージした曲,ということで暗いトーンに時々悲鳴のような管楽器の響きが絡むような曲でした。手慣れた感じでよくまとまった曲だと思いましたが,映像がある方がもっと面白そうだと感じました。逆にいうと音だけでは少々物足りない気がしました。

2曲目は小川典子さん独奏のシューマンのピアノ協奏曲でした。小川さんは,ステージに登場した瞬間に雰囲気が明るくなるような方でした。ただ,シューマンを演奏したせいか,演奏そのものは華やかというよりはきっちりとした真面目な印象を受けました。いずれにしてもスター性と実力を兼ね備えた正統派のピアニストと思いました。技巧的にも音の響きにも余裕があり安定感がありました。シューマンのこの協奏曲はもとは幻想曲として作られたということですが,そういう怪しい雰囲気というのはあまり感じられませんでしたが,この辺は室内オーケストラの薄めの響きのせいかもしれません。オーケストラの方は1楽章のオーボエ,クラリネットが見事でした。オーボエの人は,最近新しくOEKに入った若い女性ですが,とても良い音でした。演奏後にはもちろん指揮者からお褒めをいただいていました。2楽章はピアノが伴奏のようになりチェロが主役になってしまいますが,このチェロ4人の響きも印象的でした。第3楽章は,転調の繰返しと音階のような動きを聴くだけでワクワクしてしましました。この辺のスリリングな感じというのも小川さんの持ち味なのかもしれません。シューマンのピアノ協奏曲を生で聴くのは初めての経験ですが,改めて「いい曲だ」と思いました。シューマンの曲の中でいちばん楽しめる曲かもしれません。

後半は,10月の中国(中国地方ではありません)演奏旅行にメインの曲として持っていく曲のベートーヴェンの交響曲第7番でした。そのせいか,非常に印象に残る演奏になりました。プレトークで岩城さんが「第1楽章と第2楽章をアタッカで続けてみます」とおっしゃっていたのですが,その他にもいろいろな点で表現意欲を感じさせる演奏でした。その気合が空回りせず,演奏に反映していて,少々の演奏の粗さを帳消しにしていました。とにかく,気合が入っていました。テンポは中庸でしたが,非常に力感がありました。以前,OEKでこの曲を聞いた時よりは,テンポは少々遅く感じましたが,その分スケール感が増していました。ホルンなど管が万全ではありませんでしたが,そういうこともあまり問題にならないように聞えました(ただ,客演の外国人のホルン奏者の強奏は見るからに迫力があります。)。特に印象に残ったのは,第1楽章展開部の弦の迫力でした。小編成だけに音の鋭さが際立っていました。第2楽章をアタッカで続けたのは,やはり落着きませんでしたが,その分2楽章の静けさが対比的に強調されました。第2楽章の最初の方のチェロのウェットな感じがなんともいえず魅力的でした。第3楽章から第4楽章へもほとんどアタッカで演奏していましたが,こちらの方は時々ありますね。第4楽章も小編成ならではのアクセントの強さが効果的でした。演奏後は,さすがに聴いている方も少々疲れましたが(岩城さんも力を尽くしたという感じでした),非常に充実感の残る演奏会になりました。