オーケストラ・アンサンブル金沢第76回定期公演
98/10/26石川厚生年金会館

バッハ,J.S./管弦楽組曲第4番ニ長調,BWV.1069
バッハ,J.S./管弦楽組曲第1番ハ長調,BWV.1066
バッハ,J.S./管弦楽組曲第2番ロ短調,BWV.1067*
バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番ニ長調,BWV.1068
(アンコール)
バッハ,J.S./管弦楽組曲第3番ニ長調,BWV.1068〜エア
●演奏
ニコラス・クレーマー/Oens金沢/曽根麻矢子(Cem)/ウィリアム・ベネット(Fl)

今回報告するオーケストラ・アンサンブル金沢の定期演奏会は,10/27に行われた「オーケストラ・フォーラムin石川」の開催記念演奏会も兼ねて行われました。岩城さんをはじめ,このフォーラムに出席する人たちも来席されていました。この演奏会は,バッハの管弦楽組曲全曲を一晩で聴けるというのが目玉です。滅多にない経験をできました。例によって音がホール全体に届かないホールで行われたので,できるだけ前の方で聴くことにしました。

第2番のフルート独奏にウィリアム・ベネットさん,チェンバロに曽根麻矢子さんと豪華ゲストを招いて行われたのですが,主役は指揮のニコラス・クレーマーさんでした。軽やかな足取り,チョッキを着て,にこやかで紳士的な雰囲気,というのはまさにバロック音楽の指揮者というイメージでした。音楽の作り方もそのイメージどおりで,爽やかな印象を残してくれました。この方はどういう指揮者か知りませんが,古楽器演奏や室内オーケストラの指揮に通じた中堅〜ベテランという印象を受けました。

OEKの弦楽器はほとんどビブラートなしで演奏しており,いつもと全然違う響きが出ていました。じっくりとリハーサルをしないと,これだけ響きは変えられないと思いました。演奏後の演奏者の様子を見ていると指揮者に対する信頼感は,非常に強いようでした。これからも客演をしてほしい指揮者です。

楽器の配置もかなり変っていました。下手から第1ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,第2ヴァイオリンの順に並び,コントラバスは中央の奥,チェンバロは指揮者の前と下手奥の2個所に配置していました。曽根さんは,第4番と第3番にだけ登場し,第1番と第2番はクレーマーさんが指揮を兼ねて演奏していました。半分立ってチェンバロを弾きながら,指揮をするというのも独特なスタイルでした。それにしても,ソリストとして有名な曽根さんをほとんど目立たない通奏低音で使うというのも贅沢な使い方だと思いました(もしかしたら客寄せだったのかもしれないのですが...ちなみに演奏会の前のプレ・トークは曽根さんが担当されていました。)。

曲の配列は,トランペットの入る第4番,第3番という派手な2曲の間に,協奏曲風の第1番,第2番を挟む形になっていました。やはり第3番がいちばん演奏効果が上がるので,この形がいちばん座りが良いようです。管弦楽組曲は,4曲ともフランス序曲+舞曲という形で,聴いていて少々単調でしたが,各曲はそれぞれに特色がありました。

4曲の中では,最初に演奏された第4番は,それほど面白いと思いませんでしたが,これまでほとんど聞いたことのなかった第1番が素晴らしい曲だったのが収穫でした。まず,冒頭の木管の厚みのある響きに感激しました。ソリストとして指揮者の前に座っていたオーボエ2本とファゴット1本のソロが見事で(特に序曲の中間部の速い音の動き),協奏曲として楽しめました。第2番は,弦楽器の人数を減らし,フルート・ソロを浮き立たせようとしているようでした。オーケストラというよりは室内楽に近い感じでした。序曲のテンポが,非常に速いのに驚きました。家にはカザルスの演奏があるのですが,それの倍ぐらい速さでした。もう一つピノックの演奏もあるのですが,こちらとほぼ同じテンポでした。近年になってテンポの解釈が変わったのでしょうか?いずれにしても,この速さはいくらなんでも速すぎかな,と思いました。ベネットさんのフルートはソリスティックに目立ち過ぎることがなく,オーケストラとよく溶け合っていました。いちばんフルートが目立つバディネリでも,浮き足立たず,着実に演奏をしていたのが印象に残りました。

最後に演奏された第3番では,ノンビブラート奏法が際立っていたエアが何といっても,印象に残りました(もちろんこれがアンコール)。なんともいえない透明感と浮遊感が出ていて,聴きなれているはずのこの曲から非常に新鮮な響きを引き出していました。トランペットは曲の冒頭の音をちょっとはずしていたのが残念でしたが,エアの後,流れるように続く舞曲の中ではきちんときめていて,祝祭的な雰囲気を出していました。古楽器風のパリっと乾いた音を出していたティンパニも印象に残りました。

というわけで,OEKを古楽器風の響きに変えた,クレーマーさんの力量はなかなかのものでした。今度聴く機会があれが,もっと響きの良いホールで聴いてみたいものです。

PS.演奏会の翌日に行われたオーケストラ・フォーラムin石川というのにも参加してきました。フィンランドのラハティ交響楽団のあるラハティ市の市長も出席されて面白いフォーラムになりました。全国のオーケストラのチラシや自主的に制作しているCDなども並べられ楽しめました。1時から5時という長時間だったのですが,もう少し時間があれば...と思うほどでした。内容については,また別の機会ということにしておきます。