ベルギー・ヴァイオリン楽派の栄光
98/11/18金沢読売会館ホール

1)ウ゛ィュータン/カプリッチョハ短調
2)ウ゛ィュータン/エレジーヘ短調
3)ウ゛ィュータン/グランド・ソナタ,op.12
4)イザイ/無伴奏ウ゛ァイオリン・ソナタop.27-3「バラード」
5)ルクー/ウ゛ァイオリン・ソナタト長調
(アンコール)
6)ドビュッシー?/ハバネラ風の曲
7)?/アンダンティーノ
●演奏
ミカエル・グットマン(Vn)2-7/菊地洋子(Pf)2-3,5-7/菊地崇(Vla)1-2

今回報告するのは,「ベルギー・ウ゛ァイオリン楽派の栄光」と題された渋めのこじんまりした演奏会です。北陸の方もいよいよ冬らしくなり,演奏会にも人が入りにくくなるシーズンになりますが,この日は,会場も狭いこともあり,100人以下のお客さんでした。ヴイュータン(プログラムの表記に従っておきますが,非常にタイプしにくい表記です)のグランド・ソナタという曲の初演とルクーのヴァイオリン・ソナタを生で聴いてみたいと思い,寒さの中を出かけてきました。

演奏会の最初に2曲は,菊地崇さんという目の不自由なヴィオラ奏者によるヴイュータンの小品2曲でした。盲導犬がステージの上で一緒にヴィオラを聴くという光景は初めて見ました。センチメンタルで聴きやすい曲で演奏者の内向的な雰囲気によくあっていましたが,やや平板で起伏のない音楽に聞えました。

3曲目が今回の日本ツァーが世界初演というヴイュータンの若い時の幻の作品,グランド・ソナタでした。名前のとおりののもすごい大曲でした。クロイツェル・ソナタよりも長かったと思います。曲は4楽章構成でソナタ形式・スケルツオ・緩徐楽章・ロンドという古典的な構成でした。曲の密度は,やや薄いと思いましたが,その分,華やかさとか親しみやすさはあり,ヴァイオリンの新たなレパートリーになりうると思いました。

演奏の方は,かなり音程に問題がありました。ミカエル・グットマンというベルギーのヴァイオリニストが演奏したのですが,高音はほとんど不安定という感じでした。この人は最近ASVレーベルにこの曲を含むCDを録音しており,会場で販売していたので記念に買って聴いてみたのですが,CDの方でも音程が悪かったので,調子が悪かっただけ,という問題ではないようです。とはいえ,地味目のくすんだ音色は,バリバリと華やかに弾く演奏とは対極にあり,狭い会場で聴く分には,耳にしっとりと響きました。メジャーなヴァイオリニストにはなりそうにもありませんが,独特の個性は持っていると思いました。ただ,この規模の大きなソナタをヴィルトーゾ風の演奏で聴いてみたい気もしました。

後半は,イザイのバラードとルクーのヴァイオリン・ソナタでした。この日のプログラミングはベルギーの作曲家のヴァイオリン・ソナタで統一されており,非常によい構成だと思いました。

イザイの曲は以前もっとバリバリと弾く演奏を一度聴いたことがあり,格好の良い曲だと思ったことがあります。グットマンさんの渋い演奏も悪くはありませんでしたが,この曲については,鋭さとか激しさとか迫力がもっとほしいと思いました。

最後のルクーは生では初めて聴く曲でしたが,評判通りの名曲でした。フランクのヴァイオリン・ソナタと雰囲気が似ていますね。中ではいろいろな形で繰返し出てくる冒頭の主題と延々と続くような2楽章が印象に残りました。全曲を通じてずっと浸っていたいような音楽ですが,特に2楽章にはずっと浸っていたいような気になりました。演奏は,例によって音程が悪いのが残念でしたが,情熱的なところもある曲なので,音程の乱れも情熱に紛れて?それほど気になりませんでした。ちなみに私の持っているボベスコのCDの演奏も音程が不安定な感じです。悪くはないのですが,きちんと演奏された演奏も一度聴いてみたいものです。

少人数ながらも熱心な拍手が続き(やはり前半と後半にそれぞれ30分以上かかるソナタがある演奏会というのは演奏するだけで立派だと思います),アンコールが2曲ありました。いずれも曲名はよくわかりませんでした。最後に弾かれた誰かのアンダンティーノという曲は非常にデリケートで美しい曲でした。曲名がわからなかったのが非常に残念です。