オーケストラ・アンサンブル金沢創立10周年記念
"県内縦断ありがとうコンサート
99/01/30根上町総合文化会館音楽ホール・Tanto

1)モーツァルト/歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」序曲,K.588
2)モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調,K.218*
3)モーツァルト/交響曲第41番ハ長調,K.551「ジュピター」
(アンコール)
4)モーツァルト/セレナード「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」〜第1楽章
●演奏 大友直人/OEns金沢/矢部達哉(Vn*4)

今回は前回報告したゲネプロの本番の方です。といっても演奏会場は金沢の郊外の根上町で行われたもので,メインの曲も英雄からジュピターに変えられています。根上町はジャイアンツの松井と自民党の森嘉朗氏の出身地です。それと関係あるのかどうかはわかりませんが,非常に音響の良いホールが数年前にできました。シューボックス型の音楽専用ホールでOEKにはピッタリの大きさです。というわけで,こちらで演奏会がある時は,1時間ほど車に乗って出かけることにしています。

お客さんは,ヴァイオリン協奏曲の楽章間に拍手が入ったり(あれだけ見事なカデンツァの後だと拍手したくなりますが)して,金沢の聴衆に比べると,演奏会に慣れていない感じでした。その分,音楽に浸れることを素直に喜んでいるようでした。ホールの響きは,金沢のホールに比べると格段に豊かです。特に木管の音がきれいに聞えました。OEKの管も一流なのだ,と再認識しました。小さいミスさえも音楽的に響くような気がして,全然気になりませんでした。オーケストラの力量を細かくあれこれいう前に,まず,響きの良いホールがあるかないかの方が重要な問題だということを痛感しました。

最初のコシ・ファン・トゥッテ序曲は,冒頭の充実した響きにまず感心しました。オーケストラも気持ち良さそうでした。木管で繰返し出て来る音型も残響が多いのにクリアに聞こえ,とてもきれいに響いていました。

2曲目は,それほどオーケストラが活躍する曲ではないので,矢部達哉さんのヴァイオリンの独擅場でした。矢部さんの音は,細くて,ムラがなく,非常に真摯な感じでした。音程も正確なのですが,外見からも非常にきちんとしている方のような印象を受けました。演奏の印象は,全般にクールなのですが,冷たいというわけではなく,品が良く,清潔感のある演奏を目指している気がしました。というわけで,モーツァルトの初期の曲にはピッタリでした。最高水準のモーツァルトだったと思いました。演奏会の後,例によってサイン会をやっていたので,記念にサインをいただいてきました。何か一言と思い「カデンツァはどなたのものだったのですか?」と尋ねたところ「通常のヨアヒムのものです」と教えていただきました。何が通常か知らなかったのが恥ずかしかったのですが,丁寧な回答に矢部さんらしさが出ていたと思いました。

休憩後は,ジュピターでした。意外にこの曲を生で聴く機会はなく,もしかしたら10年ぶりぐらいかもしれません。大友さんの指揮はゲネプロで聴いた時よりもさらに滑らかだったと思いました。小編成のOEKから無理のない伸びやかな響きを引き出し,演奏会の最後をしめるのに相応しい立派な演奏でした。全般にモーツァルトらしい柔らかな響きが中心でしたが,両端楽章では,所々金管をかなり強調しており,力感の不足もありませんでした。第1楽章は,結構フレーズ間に休符のある箇所が多いのですが,残響が豊かなので,その休符が非常に生きていました。第4楽章も豊かな残響のせいでまさに壮麗という感じに仕上がっていました。クライマックスはトランペットを強調していたので,祝祭的な感じが良く出ており「ジュピターを聴いた」という充実感が残りました。しかも,全然うるさく響かないのは,大友さんの指揮のバランス感覚の良さだと思います。大友さんは,曲を歪めるということを全くしないので,それほど個性的ではないのですが,私は大変好感を持ちました。恐らく,オーケストラの方も大船にのったつもりで演奏でき,気持ちが良かったのではないかと思いました。ジュピターの最後の方など,気持ちよく乗って弾いている様子が聴衆までよく伝わってきました。

響きの良いホールとそれを生かした大友さんの指揮という条件が揃い,非常に納得のいく演奏会になりました。大友さんには,これからもしばしば客演してもらいたいものです。