オーケストラ・アンサンブル金沢のメンバーによる
ウィンター・チェンバー・コンサート
99/02/17 金沢市民芸術ホール

1)ドヴォルザーク/弦楽六重奏曲イ長調,op.48
2)シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調,op.44
(アンコール曲)
3)シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調,op.44〜第3楽章
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ(Vn)
江原千絵(Vn*1),トロイ・グーキンズ(Vn*2)
イラクリ・ジャパリーゼ,軍司玲美子(Vla*1),眞家利恵(Vla*2)
ルドヴィート・カンタ,大澤明(Vc*1),フロリアン・リーム(Vc)
ユリアン・リーム(Pf*2)

毎年この時期にオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の定期公演にあわせてジャン=ピエール・ヴァレーズさんのヴァイオリンを中心としたOEKのメンバーによる室内楽の演奏会が開かれます。今年は,ドヴォルザークとシューマンの大曲2曲のプログラムでし た。演奏者はヴァレーズさん以外は前半と後半ですべて違うメンバーでした。つまり,ヴァレーズさんのリーダーシップを中心とした室内楽ということになります。お客さんはこの季節にしては珍しくほぼ満席でした。

前半のドヴォルザークの曲は演奏されるのがかなり珍しい曲です。第1楽章の冒頭からしてブラームスのような雰囲気がありますが,恐らくブラームスの同じ編成の曲の影響があるのだと思います。とはいえ,第2楽章〜第4楽章は民族音楽風で,ソナタ+舞曲というドヴォルザーク的な構成になっています。全体で35分ほどかかる大曲です。

こういった構成のせいか,全体的には,やや散漫な印象を受けました。ヴァレーズさんの音色は軽く甲高い感じで他の奏者から浮き上がっているように聞えました。専門的なことはわかりませんが,ヴァイオリン演奏の流派が違うので音色の溶け合い方が悪いのではないかと感じました。その他の声部の音もあまりはっきり聞えず,大きめの室内楽の割にシンフォニックな感じには聞こえませんでした。ドヴォルザーク独特の豊かな楽想もあって,良い気分には浸れましたが,流れるように終わった,という感じでした。

この曲の中では,哀愁漂うドゥムカの第2楽章,スラヴ舞曲の室内版のような第3楽章などテンポの変化の大きい部分の方がヴァレーズさんのスタイルにはあっていると思いました。最終楽章は,変奏曲なのですが,変奏曲で緊迫感を出すのはなかなか難しいと思いました。華やかに終わるのですが少々とってつけたような終結という印象を持ちました。親しみやすい曲なのですが名曲と呼ばれるまでには至っていないのはこういうことによるのかな,と思いました。

後半のシューマンは,ピアノが加わっただけで響きが非常に締って聞えました。これは名曲ですね。第4楽章の最後にはフーガ風の部分も出てきて演奏効果の大変上がる曲だと思いました。冒頭からして鮮烈でした。それとは対照的なチェロとヴィオラによる甘い第2主題も雰囲気がありました。ヴァレーズさんのヴァイオリンは前半同様軽い感じで,全体の響きも明るめでしたが,この曲の輝かしさには相応しいと思いました。2楽章の葬送行進曲などはもう少し暗い方が良いような気もしましたが,その分透明感がありました。アンコールでも演奏された第3楽章はピタリと揃っており気持ちのよいアンサンブルを楽しむことができました。終楽章も楽しめる演奏でしたが,フーガ風の部分などはもっと重く力強い方が良いような気がしました。ピアノは派手に前面に出ることはなく,アンサンブルにきれいに溶け込んでいました。チェロのリームさんの兄弟のようで,学生のような初々しい感じの方でした。

OEKのメンバーとヴァレーズさんの組み合わせは常設のアンサンブルではないので,音色の溶け合い方がもう一つのような気はしましたが,金沢で室内楽の名曲を生で聴く機会は少ないので,これからもずっと続けていって欲しいと思います。