オーケストラ・アンサンブル金沢第79回定期公演
99/02/23石川厚生年金会館

1)ハイドン/交響曲第59番イ長調「火事」
2)シューマン/チェロ協奏曲イ短調,op.129
3)デュティユー/瞬間の神秘(日本初演)
4)ファリャ/バレエ音楽「恋は魔術師」
(アンコール)
5)ファリャ/バレエ音楽「恋は魔術師」〜「愛の悩みの歌」
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ/OEns金沢
ルドヴィート・カンタ(Vc*2),鳥木弥生(Ms*4,5)

今回報告するのは,J.=P.ヴァレーズ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢による,かなり盛り沢山なプログラミングの演奏会です。聴く前はどういう演奏会になるか予想がつかなかったのですが,最後の曲がピシっと決まったせいもあって,良い演奏会になりました。

最初は,ハイドンの「火事」という例によって意味不明のタイトルのついた交響曲でした。私にとって,ハイドンの交響曲を聴くことは,全然退屈なことではなく,マイナーな曲を発見するのが結構楽しかったりするのですが,この日のハイドンはあまり印象に残りませんでした。繰返しをしていなかったせいか,あっさり終わった,という印象でした。第1楽章などもっと切れの良さが欲しいと思いました(超ドライな,音の通らないホールでハイドンの小編成の曲を演奏すること自体かわいそうなのですが)。第2楽章のほんわかとした雰囲気(告別交響曲とそっくりのメロディが出てきます)はなかなか良かったのですが,だんだんぬるま湯につかっているような気分になってしまいました。

2曲目は,OEKの主席チェロ奏者のカンタさんの独奏によるシューマンのチェロ協奏曲でした。カンタさんの演奏はクリーミーな高音が魅力なのですが(気のせいか高音が多い曲のような気がしました),今日の演奏は,さらに,一つ一つの音に命がこもっているようで感動しました。技術的にもパーフェクトな演奏だったのではないでしょうか。立派なソリストとしての演奏だったと思いました。

この曲は,構造がメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲に少し似ていると思いました。もちろん親しみやすさの度合いは全然違いますが,楽章間に切れ目がなく,チェロが出ずっぱりというところがよく似ています。第2楽章はとても抒情的でオーケストラのチェロとソロ・チェロとの美しい2重奏があるのですが,じっとオーケストラの方を見ながら演奏するカンタさんの様子を見ていると,OEKのアンサンブルの良さの一端を感じました。こういうのはCDでは味わえない面白さです。演奏後もコンサートマスター,指揮者,オーケストラのチェロなどと抱き合って喜びを分かち合っていて,皆さんとても嬉しそうでした。よい光景でした(ただ,この曲には後期のシューマン独特のなんともいえない暗さがあって,好きになるにはもう少し時間がかかりそうですが)。

後半の最初はデュティユーの日本初演の曲でした。現代音楽は生で聴くと飽きない,という法則があると常々感じているのですが,今回もその法則が当てはまりました。結構浸れました。この曲は,パウル・ザッヒャーの依頼で作曲された曲ということですが(この人は歴史上の方かと思っていたのですがまだ存命中の方のようです),「弦楽器,打楽器とツィンバロンのための音楽」という趣きでした。ツィンバロンという珍しい楽器を初めて生で見られたことが収穫でしたが,音も非常に魅力的でした。弦楽器の方は,ありとあらゆる技法を使っていたような感じでした。特に高音のポルタメントのような響きが耳に残りました。ヴァレーズさん自身ヴァイオリニストなのでこういう技巧的な曲を選んだのかもしれません。演奏後は,疲れ果てたような印象でした。

最後は,ファリャの「恋は魔術師」でした。名演だったと思います。ヴァレーズさんの指揮はアバウトな感じがして,地に足が着いていないように感じることが多いのですが,今回の演奏は,非常に生き生きとした演奏でした。ファリャの曲が良いせいなのかもしれませんが,ヴァレーズさんのテンペラメントにピタリとはまっていた印象を受けました。いつもは気になるホールのドライな響きさえも,ラテンの雰囲気には合っているように思えてしまいました。

まず,冒頭のトランペットの突き刺すような強い音にゾクっとしました(演奏後,いちばんに誉められていました)。それ以外の各楽器のソリスティックな面白さもよく出ていました。コンサート・マスターのボガチュさんのソロにも良い味がありました。

この曲は派手目の「火祭の踊り」が有名ですが,それ以外の部分は結構,抒情的だと思いました。「ピアノの音+弱音の弦の透明感」の美しさは室内オケならではでした。全般に落ち着いたテンポでじっくり聴かせてくれたので,この曲の別の魅力を教えてもらったような気もしました。もちろん「火祭の踊り」ではホルンの朝顔を持ち上げての強奏などもあって,ラテン的強烈さにも不足はありませんでした。

歌のソロは地元出身の新人の鳥木さんという人でした。この曲のソロは地声っぽい部分が多く,正統的な発声法とは違うようなので,かなり大変だったのではないかと思いました。もう少し貫禄のあるふてぶてしい歌の方がふさわしいとは思いましたが,この辺は新人に要求するのは難しいかもしれません。